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らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

INDEX|26ページ/47ページ|

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「……満月に近いほど、その蓋が小さくなるってこと?」
「そういうことだ」
「じゃあ新月の民は」
「新月の夜に生まれた者は、たとえ儀式を受けても月の力を使えない。その器は完全に蓋がされている状態になるから、月の力が蓄積されることがない。だから力を使えない。月印も光ることはないから、儀式を行おうが行うまいが何も変わらない。それがわかっているから、新月の日に生まれた者に儀式を行うことも無くなっていったのだろう」
「……」
「で、おまえたちの仲間の件だ。そのエドアルドとかいうやつは、新たな月印を御しえないでいる。器に溜まった力の使い方を誤り、過剰に力を引き出そうとして、言ってみれば、器にひびが入ったような状態になっているわけだ」
 身体の中の器にひびが入る。目に見えるものじゃないからか、それとも月印を使ったことがないからか、カペルには上手く想像できない。
「そんな状態で月の雨を浴びたらどうなるか……。月の雨は体内の月の力を増量する。過剰に月の力を注ぎ込まれ、ひびからそれが漏れ出している状態だ。月の力を直接浴びられるほど人間の身体は強くない。そのための身体を持ったハイネイルでもない限りな。そいつが苦しんでいるのは、強すぎる力に身体が耐えきれなくなっている結果だ」
「耐えきれなくなる?」
「過剰な力は毒になる。許容範囲を超えて力が注ぎ込まれれれば、人間は壊れる。……簡単にな」
「こ、壊れるって」
「弱い者は死ぬ。だが、強い者は……」
 そう言ってキリヤは目の前に拳を突き出すと、月印を光らせた。そして、全員を見回してから、その手を裏返して手のひらを天井に向けた。
「反転する」
「反転?」
「毒を制し、強大な力を利用できるように身体が作り替えられる。人の姿を失い、人の意識も失った、姿の見えない化け物にな。反転せし者。俺はリバスネイルと呼んでいる」
「リバスネイル……」
 皆、そのリバスネイルに心当たりがあった。ケルンテンに到着した直後に、一度戦っているのだから。エドアルドがあの化け物と同じものになろうとしているという理解が、全員から言葉を奪った。
「……弱ければ死ぬ。強ければ化け物になる。そんなのってありなの?」
 アーヤが戸惑いの声を上げる。それを見下ろすようにしてキリヤは言った。
「そのためのそいつだろ? せいぜい急ぐんだな。そいつで月の力を抑制してこい。それで安静にしていれば、器のひびも治るだろう。だがな、おまえの仲間、たぶん耐えるぞ。このままだとリバスネイルへ変身だ。その薬はまだ試作段階だ。完全に反転を終えてしまったら、手遅れになる」
 手の中で光る虹色の結晶体。この試験薬だけが唯一の希望……。
 思わず手に力が入り、大事な薬を落としそうになる。直後、それをなんとか堪えたカペルの横をすり抜け、ヴィーカがキリヤの前に立った。その声は、いつものヴィーカらしからぬ深刻なものだった。
「なあ、この薬が完成したら、完全に反転したやつを治すこともできるのか?」
「理論上はな」
「そっか……」
 ヴィーカがぐっと両の手を握るのが見えた。何かに耐えているかのようだと思ったカペルだったが、ヴィーカは振り返るなり、いつもの威勢のいい声を上げた。
「兄貴、さっさとそいつを持ってケルンテンに行こうぜ! 深刻な顔をしていても、エドアルドを助けることは出来ないんだ。良かったじゃないか、治せる方法が見つかったんだからさ!」
「う、うん」
「それじゃ、早速出発だ。ほらほら、急いだ急いだ」
 カペルはヴィーカに押されるようにして出口へと向かった。様子を伺ってみても、背中を押すヴィーカの表情は見えなかった。

「キリヤ、よく研究しましたね」
 突然の来訪者たちが庵を後にするのをキリヤが見送っていると、最後に残っていたソレンスタムが言った。知っている師匠とはどこか違う、少し人間くさくなったかと思えるその声に、キリヤは少し驚いていた。
「……ですが、そのおかげでヘルドにつけ狙われる羽目になってしまったんですけどね」
「ヘルドが!?」
「あの馬鹿、どうも封印軍に参加していると聞きました」
「私もその噂は聞いています……」
「そこで碌でもない研究をしているらしいです。リバスネイルの制御がどうこうとね。まったく、あいつは師匠の教えをなんだと思ってるんだ」
「ですが、何故ヘルドがあなたを?」
「あの治療薬ですよ。リバスネイルの研究にでも使うのでしょう。ハルギータにいた頃に、それで一度襲撃を受けました。それは何とか逃れたんですが、あそこにいたら女皇に要らぬ手間をかけさせることになると思い、研究成果ごと出奔してここに来たのです」
「結界はそのためですか」
「ええ」
 そう言えば、結界は破られてしまったのだった。張り直すのも手間だな、とキリヤが嘆息を漏らしていると、思案顔を浮かべていたソレンスタムが唐突に言った。
「キリヤ、あなたも一緒に来なさい」
「わ、私がですか!?」
「私は彼らと旅をするうちに、様々なものを学びました。庵を構えて一人で居ては学び得ないものをです。あなたにとっても、けして無駄にはならないでしょう。……それにスバル女皇もそれをお望みです」
 陛下の望み。
 久しく会っていない女皇の顔を思い出すと、キリヤにはソレンスタムの提案が断ることが出来ないもののように思えてしまった。
「……はあ、ついて行けばいいんでしょう? 師匠がそこまで言うのならついて行きますよ」
「ええ、それで良いのです」
「あの薬はまだ試作品。効果を自分の目で検証する必要もあります。それにヘルドのこともある」
 女皇の顔を思い出しながらも、自らに言い聞かせるように言葉にしてみたキリヤだったが、師の笑みは、キリヤの誤魔化しなど見透かしているかのようだった。


 コバスナ大森林をケルンテンへとひた走る。まだずいぶん距離があるのだが、だらだらと歩いてはいられない事情ができてしまったのだから、多少息が上がっても気にはしていられなかった。
「珍しく愚痴一つこぼさずに走ってるじゃない」
「僕だってそんな場合じゃないことくらいわかるよ」
「そうね、急ぎましょう……ん?」
 アーヤの顔に警戒の色が浮かぶ。同時にトウマやコマチが武器に手をやるのが見え、カペルも慌ててそれにならった。
「な、何? どうしたの?」
「……何か来る」
 直後、遠雷のような咆哮が森の向こうに聞こえ、何かが枝葉を押しのける音が続いた。
「全員、散れ!」
 トウマが叫ぶ。
 直後、それは頭上からやってきた。
 コバスナの木々を越えるほどの跳躍から再び大地に戻ってきた巨体が、先ほどまでカペルたちのいた空間に降り立った。獰猛な肉食獣の顔を持ったその四足の巨獣は、前足に竜の翼を持ち、背から五又の大蛇を生やしている。こんな異形の生き物をカペルは見たことがない。
「な、なななな、何なのこれ!?」
 カペルが悲鳴にも似た声を上げる横で、隣にいたトウマが刀に手をやりながら言った。
「オルトロス! コバスナの主が何故我々を襲う!?」