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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

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 漆黒の翼を持つ化け物を追って転送陣の方へとやってくれば、そこは子供とクリムゾンベアによって塞がれていた。こんなところで遊んでいる場合ではないというのに、子供たちはそこを動こうとしない。
 自分たちを解放軍と言い張るこの子供たちはいったい何者だ。それよりなにより、あのクリムゾンベアはいったい……。
「ここは通さないもんねー」
「おじさんたち、邪魔になるだけだから」
「なっ」
 失礼な物言いにいらっとするが、クリムゾンベアが気になって前に進めない。子供たちと一緒になって道を塞いでいるのだ。無理に押し通ろうとしたら、と想像するのは同僚たちも一緒のようで、誰も進んで前に出ようとしない。
「カペルたちに任せておけばもんだいないよ」
「なんたって、カペルは光の英雄なんだから!」
「がう」
 子供たちの言う意味もよくわからず、街の喧騒とは不釣り合いのこの状況に、兵士たちはただその場でおろおろとするほかなかった。


『ボルデクス』
 ほぼ同時に詠唱を終えたソレンスタムとヘルド双方から雷撃の帯が伸び、その中間でぶつかったそれは、激しい火花をまき散らしながら爆ぜて消えた。相殺された光の帯の向こうには、喜色を浮かべる弟子の顔。力を誇示するために、こちらの魔法を真似てみせたつもりなのだろう。魔術師としての成長には目を見張るものがあるが、当然、いまのソレンスタムにそれを喜ぶことは出来なかった。
「ヘルド、あなたは強くなった。ですが、そのような姿になってまで力を得て、いったいそれが何になると言うのです」
「ハイネイルとなったあなたはもうお忘れでしょう。より高きを望み、より強きを求めるは、人間の本能。我々はそういう姿で生まれてくるのです。私は私の心に正直なだけですよ」
「際限なき欲望に身を任せることが、あなたが望んでいたことなのですか!?」
「ファウズデクス!」
 ヘルドの叫びに応じて月印が光り、その眼前に紅蓮の火柱が立ち上がる。それは地面を融解させながらひた走り、ソレンスタムを飲み込もうとした。
「ペシファノーガ」
 ソレンスタムは、その炎の軌道にある地面を瞬時に凍らせ、動きが鈍ったところに爆発的な水柱を屹立させる。焼けただれた大地の上、相殺された炎と水が霧状になってたゆたう空間を、今度はヘルド自身が突っ切ってくる。
 鎖鎌の刃が喉を捉える直前にソレンスタムはそれを受けたが、力では明らかにヘルドに分があった。押し切られそうになるのをかろうじて堪え、ソレンスタムは間近に迫った弟子の顔を正視する。
 ここに来てまだこの者を助けたいと思うのは、おごりだろうか。助ける方法も知らず、手を抜く余裕さえも無い不甲斐ない師に、弟子を助けることなど出来ようはずが無い。
「私だけではない。そこのリバスネイルも、ケルンテンに置いてきた新月の民どもも、要するに力を求める心が合ったからこそ今の姿になったのだ。リバスネイルは人のあるべき姿。己が心に正直なその姿に、いっそ美しささえ感じるというものですよ」
 そこまで言い、ヘルドは不敵に笑みを浮かべて後ろに飛んだ。
「ルトジック」
 直後、ソレンスタムの目の前の空間が歪み、全てを吸い込む深紫のエネルギー体が出現する。咄嗟に距離を取ったソレンスタムだったが、ぐんと大きくなったそのエネルギー体の引力に徐々に引き寄せられていく。
「あの大剣を振るう剣士はどうです? 欲望に身を任せて暴れるあなたの仲間とやら。あれもまた同様でしょう。孤独に狂い、結局は己の中の力にすがるしかなかった。私はきっかけを与えたに過ぎない」
 孤独に狂う。
 それはヘルドもまた同様ではなかったか。彼を弟子にして、私は彼に何を教えた。技を教え、道を説いた。それだけか? 技は力を与え、理を授ける。道は過去を示し、未来を指し示す。だが、ヘルドの今を見ていなかったのではなかったか。
 目の前のヘルドの姿が、全て自分の責だと思うのもおごりだろう。だがそれでも、今のヘルドを直視するのが、師であった自分の務め……。
「人は変わる。変わりうる」
「うん?」
「テルトン!」
 両の手で持った杖の左右から赤と青の光球が発せられると、群れたそれらが弧を描きながらルトジックの作る歪みへと殺到する。ぶつかり合った光球たちが爆ぜ、互いを相乗したエネルギー体が深紫のエネルギー体を相殺し、大気を震わす波動となって姿を消す。それを確認すると、ソレンスタムはヘルドを正面に捉えて告げた。
「来なさい、ヘルド。そして教えてあげましょう。人は変われるということを。私の仲間たちのためにも、あなたは私が止めてみせます」
「仲間。ずいぶんと似合わない言葉を吐くようになりましたな、師匠。人は変わらない。人の醜さなど、有史以来いくらでも例があるでしょうに。それに、これからも嫌と言うほど目の当たりにすることになる。闇公子が帰ってくれば、すぐにでも大きな戦が始まるのです。それで否応なく気づかされる」
「レオニードが!?」
「……おや、星読みソレンスタムともあろうお方がご存じなかったのですか? ふふふ、これは面白い」
 レオニードはやはり生きていた。カペルたちの話を総合すれば、レオニードが開いたという空間の歪みにもおおよその察しはついていたが、やはりそれは当たっていたようだ。
 セラフィックゲート。
 神の下へと向かうために課せられるという、神話の獣が巣くう試練の道。
 たった一人でその門を開いたというレオニードの力に戦慄を覚えながらも、同時に、それはシグムントが生存している可能性にも繋がることを理解する。しかし、その可能性を皆に伝えるべきなのだろうか。徐々に一つになりつつある解放軍だったが、それがシグムントの死という現実を前提にしていることをソレンスタムは知っている。確証のない希望は、それを妨げることにならないだろうか。
 ソレンスタムの思惟をよそに、ヘルドはふいに視線をカペルに移した。
「光の英雄の代理、ですか。本物と違い、ずいぶんと情けない動きをする。闇公子とどう戦うつもりかは知りませんが、その前に、あれでいつまでも世界を騙し通せますかな?」
 答えを待たず、ヘルドは鎖鎌を構えてソレンスタムを挑発する。子供じみた安い挑発に、やはり仕置きが必要なのだと理解したソレンスタムは、杖を持つ手に力を込めて詠唱を開始する。ヘルドの詠唱が折り重なり、二つの声音が戦いの匂いを漂わせ始めた空気を攪拌した。そして、その詠唱は同時に終わる。
『ファルトリオ』
 赤熱する火球がぶつかり合い、閃光の花を無数に咲かせるのを見つめ、ソレンスタムはすぐに次の詠唱を始めた。
 迷うよりもまず、やるべきことがある。


 自分の一部のように大事にしていた大剣を引きずりながら、エドアルドが突進してくる。その技も見たことがある。カペルは構えもそこそこに横に飛び、強烈な斬り上げの一撃をかわした。
 じろと睨んだ双眸が赤く光り、すぐに引き寄せられた大剣が横薙ぎに振り払われた。それも後ろに飛んで咄嗟にかわしたカペルだったが、すぐに繰り出された突きが追いかけてくる。なんとか剣の腹でそれを受け止めるも、衝撃は減殺しきれず、カペルはそのまま後方へと転がることになった。
「くっ……」