manjusaka
「確かめたわけではなく、おまえの憶測でしかないのだろう。ならば放っておくがよい。今はそのようなことに時間を割いている暇はないのだ。おまえにはやって貰わねばならないことが山ほどある。追って連絡する。自宮で待機せよ」
「ですが……いえ、承知致しました」
教皇の命令は絶対。そう信じているシュラは僅かに抱く疑問を捩じ伏せて、頭を垂れて退いた。教皇の間を出たのちに十二宮へと続く回廊の途中で立ち止まり、近くの柱へと寄りかかる。柱の間から薄く忍び込む月の光が滔々と回廊へと流れ込む様をしばらく眺めていた。霞む月影に幻を見る。
蒼い月のような少年とその腕に抱かれた小さすぎる幼子。
細く、小さな手を伸ばし、必死に縋りつく幼子を見つめる少年の眼差しはとても優しくて、温かい―――。
「どうして……サガ、あなたは……」
薄くぼんやりと見えた光景。今は遠い過去の記憶が見せるものなのだろうとシュラは目を細め、大きく息を吸い込んだ。そして深く暮れる思いを、戻ることのない過去を、偲ぶように長々と息を吐いたのだった。
fin.