瀬戸内小話2
紺碧の
細く、寒そうな背だと不意に思った。
手を伸ばせば、手が届きそうな距離。だか、決して触れてはならない背だと思った。
「……我を、憐れむか?」
まるで人の心を読んだかのように、唐突に零された言葉。たまらず、ぴくりと掌が震える。
「貴様に我の何が分かるというのだ」
背が、まるで言葉を発っしたかのように。冷ややかな拒絶の言葉が、死が支配する戦場に響く。
「……貴様と我は違う。何もかもにおいて」
敗者の将の負け惜しみと言えば、それまでのこと。だが、輪刀を手にした王は続ける。
「奢りと知れ、長曾我部。貴様は、己の尺度においてしか物事を図れぬ男よ」
ゆっくりと、返り血に濡れた男が振り返る。
殺気などなにも感じられないのに、白い手が翻る。とっさに碇鉾を構えたのは、武将としての反射に過ぎない。
鉄がぶつかり合う音が響く。
「貴様は、だから甘いと言うのだ。――弥三郎」輪刀を投げつけた指先が、空に踊る。
視界から消えゆく緑の影を、ただ呆然と眺める。
それは、とても青い空の下での出来事だった。