瀬戸内小話2
一陣の風
「また、な……」
最後に、鬼は笑った。
真っ赤に染まった掌で人の頬を撫で、唇を撫で、悔しいなと呟いた。
「もう、あんたの顔も見えやしねぇ」
熱い掌をしているくせに、死に人のようなことを言う。
「……悔しいな。もう一度、抱きたかったな」
何を言っているのか分からない。勝手なことを呟いて、人の顔をなぞる手が落ちる。
物言わぬ男を見下ろして、輪刀を振り下ろす。
骨を砕く感触と共に、転げて行く頭。
あれはもう言葉を語ることも無い、ただの物である。
「勝鬨を上げよ! 我らの勝利なり」
高らかに宣言すれば、戦場を風が吹き抜けていく。
驚くほど、それは温かかった。