瀬戸内小話2
寒風
その細い背は、驚くほど大きく、悲しいほど小さい。
ただ、どんな時もすべてを拒む。孤独と孤高を混ぜ合わせた様で、ただ真っ直ぐ前を見つめ、時を見つめ。
人としての生き方を捨てた男は、多くの領地から失ったものの代償を手に入れたのだろうか。
おそらくは、そんな風に感じるこちらの感傷など、彼は気にもしないだろう。
一切のことを拒絶していれば、そこに感情など存在しなくなる。麻痺し、劣化し、後には何も残らない。
拒む背を抱きしめると、放せと一言。それでも抱き続ければ、この男の身の内に再び炎が灯ることはあるのだろうか。
そうさせてやりたいと願う一方で、それがこの男にとっての望みとならないことも確かだろう。
「――寒いな、元就」
腕の中の小さな身体は何も応えない。
「このままじゃ、あんた、凍えちまうぜ」