瀬戸内小話2
風の終わり
風が凪いでしまえば先に進めない。
広大な海の中で、ちっぽけな船が一隻、当てもなく漂う。
食料は三日前に尽きた。水も今朝方無くなった。
甲板に寝転がり見上げた空は、海の青を映したごとく澄んだ青が広がっている。
「なあ、……俺はちっぽけだな」
高い空を飛ぶ鳥に語りかける。
これが男の望んだ未来のひとつの結果。
「なにひとつ、自由になんかなりゃしねぇ……」
やつれた腕を天に翳せば、応えるように鳥が鳴く。
ただ聞こえるのは波の音。
目を閉じれば、まるでそれは瀬戸海のようなやさしい音色で。
……帰るって約束したけど、おまえが迎えに来てくれたんだな。
さらりと優しい風が、甲板の上を吹き抜けていった。