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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆3

 ところがロザリアの予想を裏切り、『彼』は食堂には現れなかった。いや、もしかしたら現れているのかもしれないが、少なくともカタルヘナ家の三人が朝食を食べに行く八時ごろにはいなかった。ここでたいていたっぷり一時間以上は過ごすので、その前後で現れても見かけるはずなのだが、『彼』を見ることはなかった。早めなのかもしれないと思い、「お腹が空いてしまって」と本来ならそうであっても絶対そう言わないであろう言葉まで言ってしまって−−案の定、母からは腑に落ちない表情をされた−−七時に来てみてもやはりいなかった。
 てっきりお寝坊さんだと思っていたのに、もしかして実は異様に早起きとか……?
 食堂は六時から開いている。他の海岸にあるヨットハーバーまで足を伸ばす客もいるからだが、もしも六時から行っているとしたら、とてもではないが両親には言い訳がつかないし、第一、ロザリア自身も起きられない。しっかり海で泳ぐから、夜は早く眠りにつき、熟睡してしまっていて七時過ぎに起床が関の山だ。
 それが三日ほど続いた朝、とうとうロザリアは父に気付かれた。
 「何を食事中にきょろきょろとしているのかね、ロザリア」
 「食事中だけじゃないわ」母も気付いていた。「ホテルにいる間も落ち着きがなくてよ」
 ロザリアは未だかつて両親に隠し事をしたことがなかったので、観念して先日見かけたことを両親に話した。
 父は「そうか、場合によっては十時過ぎにここへ来てもこの朝食にありつけるというわけだな」と、ふだんは冷静沈着なやり手の実業家と言われているとはとても思えないようなことを言って妻から呆れられた。こほんと咳払いすると父は顎に手をやり言った。
 「しかし……六時はきついな」
 「ええ、この朝食がなければもう少し眠っていたいぐらいなのに」
 今度は母が夫から呆れられた。ふふ、と母は笑ってロザリアを見た。ロザリアも笑った。つられて父も笑った。
 「まあ、ここに一泊だけなんて酔狂な客はいないだろうから、そのうち会えることもあるだろう」
 父がそう言った。それはそうだと、ロザリアも思った。