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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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 髪を結わえていた髪ゴムをいったん外し、再度まとめなおしつつ、今度はジュリアスがロザリアを見ながら言う。
 「ところでそなた、今日は解けない水着であろうな?」
 下はパレオを巻きつけているものの、あの十五歳のとき同様のセパレートの水着−−あのときよりはるかに地味なデザインではあるが−−を着ているので、ジュリアスがそう言ったのだろう。
 「まっ! ジュリア……っ!」
 カッとしてロザリアは、文句を言おうとしてジュリアスを見た。見てしまって再び視線を足下の砂浜に落とす。
 「……私の水着姿が、それほど変か?」
 苦笑混じりの声が、頭上から聞こえる。
 「まあ確かに……最初リュミエールのプールで泳ぐためにあてがわれて、初めて着替えたときは少々気恥ずかしいものではあったがな」
 そう言って軽く、ぽん、とロザリアの肩を叩きながら、ジュリアスは言う。
 「リュミエールはああ見えても肩はかなりがっちりとしているぞ。やはり長年泳いでいた者は体格が違うな」
 「……ええ、そういえば……」
 ジュリアスにしては呑気なお喋りに、気が張っていたロザリアも、叩かれた肩から力を抜いて言う。
 「プールを作ってもらったときは嬉しかった、とおっしゃっていたわ……深い所は全く足がつかないんですってね?」
 笑ってジュリアスは肩をすくめる。
 「そうなのだ、あのあたりを泳ぐのは緊張する……だが」
 ジュリアスが微笑む。
 その穏やかな笑みに改めてロザリアは、今このとき、ジュリアスと再び会えたことを実感する。
 「そなたの言うとおりだった−−水の中は気持ちが良い」
 そう言うとジュリアスはロザリアの側を通り過ぎ、海へと向かっていった。日の光にジュリアスの髪が輝いている。そしてそれをまとめているビーズのついた髪ゴムを見てロザリアは驚いた。
 わたくしと……お揃い?
 ロザリアは自分の髪をまとめていたものを外し、それを見る。
 十六歳のとき、ジュリアスがくれた−−初めて選んで贈ってくれた、さまざまな青い色のビーズがついた髪ゴム。ただしジュリアスのそれは髪の色に溶け込んでいたから黄系なのだろう。
 あの髪ゴムをつけて、リュミエール様のプールで泳いでいたのかしら……ね。
 嬉しくなってロザリアはジュリアスの後を追いかけたが、ふとジュリアスが立ち止まり、ロザリアの方へ振り返ると叫んだ。
 「準備運動をしてから、と申しているであろう!」



 ……笑ってしまう。
 ロザリアは、砂浜の中途辺りで立ち止まるとテントへと引き返し、腰に巻いていたパレオを解いて水着だけの姿になると、とうとう我慢しきれず声に出して笑いながら、そそくさと躰をほぐし始める。
 いったい、わたくしをいくつだと思っているのかしら。
 全く……いつまで経っても、子ども扱いなのだから。
 そこでロザリアは笑うのをやめる。



 もう十九歳なのよ?
 もう『子ども』では……ないのよ?