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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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 十五歳のときに見た水着姿は、何か思うより先に怒りが走った。このような下品で、年に不釣り合いな格好をする娘ではない、という思いが先立った。
 あれから四年−−年齢だけで言えば。海に来る前に掴んだ両肩は華奢だった。そして上半身だけの水着姿を見たとき、十五のときより痩せたと思った。
 それになにより……顔色が悪かった。
 『苦労するぜ……きっと』
 そう言ったゼフェルの言葉が苦々しく思い返された。けれど、決して心配する言葉をかけてはならないと思った。私が心配しているところを見せてはならない。そうすればよけいにロザリアは傷つき、落ち込む。それよりは−−
 口が、『小屋まで泳ぐ』と言っていた。
 つられて泳げばロザリアの気持ちも晴れると思った−−あの十五歳のときのように。
 だが。
 無様にも強制的に浜へ引き戻されるとは−−しかも、その胸に抱かれながら。
 ロザリアからは何も返らない。きっと呆れ返っているのだろう。
 ジュリアスは口の中の忌々しい塩味をどうにかしたいと思いつつ、ため息をついて息を吐くことすらできないまま、ロザリアの腕に引かれていった。
 しばらくして不意に、顎の下から腕が抜かれた。ざっ、と小さな飛沫を上げてロザリアの躰が離れ、それと同時にジュリアスの頭を落ち着かせたものがなくなり、かく、とそれが後ろへ下がった。水の中、ゆっくりとジュリアスの躰が沈む。そうして、顔が出たままの状態で尻が底へ着いた。
 せめてきちんと礼を言おうとしてジュリアスが振り返ると、ロザリアはすぐ後ろにいて、膝をついた状態でジュリアスを見下ろしていた。思わず先程まで頭が抱かれていた胸を見てジュリアスは、その膨らみの下あたりが赤らんでいることに気づいた。自分の髪をまとめていた髪ゴムのビーズがそこに擦れていたことに思い至り、しまった、と後ろへ片手を回し、髪ゴムを掴もうとした。
 「大丈夫よ。大したことではないわ」
 ロザリアはそう言って笑うと、ジュリアスへにじり寄った。
 そして−−今度こそ、本当に息ができなかった。
 額や、頬や、鼻と唇−−呼吸すべき場所全てを覆われ、目には海水の雫が、極めて細く薄い産毛に弾かれるように次から次へと流れ落ちていくところだけが見えた。
 「……休憩したら……」頭の上からか、それともこの、ぴたりと顔につけられた柔らかなものを通じてなのかわからなくなるほど声は近く、まるで耳というより皮膚で聞いているような気がしてジュリアスを混乱させる。「このあたりで……沖に向かわず……海岸線に沿って泳ぎの練習をなさい……良くて? きちんと休憩してからよ?」
 頷く意志はあるのだが、身動きも取れない。それどころか、もっと強く抱き締められた。
 そのうえ。
 「ありがとう……ジュリアス」
 ジュリアスの混乱は極致に達した。
 何故、礼など言う?
 むしろ足を引っ張り、手間をかけさせてしまって、礼を言わねばならないのはこちらの方なのに。
 確かめなければと思った。
 その瞬間、一気に腕と−−胸による拘束が解かれた。
 「ロザ……っ!」
 速い。
 辛うじて、躰を返して水の中へ飛び込んだところは見たけれど、あっという間にロザリアはジュリアスから離れ、沖へと泳いで行ってしまった。
 呆気に取られて、しばらくそれを見ていたジュリアスは、やがて脱力したようにばしゃり、と仰向けになって海面へ倒れ込んだ。
 「やってくれた……な」
 一瞬水の中へ浸かり、浮いて眩しい日の光を目に受けても、今はそのままにジュリアスは心の中で呟く。
 自分は「抱っこはいや」と言っていたくせに、水の中とはいえ平気で大の男を抱え込んで運び、そのうえ心までかき乱していく。



 もう『子ども』ではない、と言わんばかりに。