あなたと会える、八月に。
あえてロザリアは、リュミエールとゼフェルの二人だけに絞って言った。もっとも、それよりももっと先に言うべき言葉があった−−新女王アンジェリークは、御代をつつがなくお迎えになったのか……とか。
けれどまだロザリアは、アンジェリークのことを口にすることができなかった。思ったとたん鈍く胸が痛む。女王試験敗北という挫折感は、二年経った今もひっそりと、ロザリアを苛んでいる。滑稽だと、自分でもわかってはいるけれど。
「元気だ、元気過ぎて……」
ジュリアスの言葉が途切れる。
「ジュリアス?」
「うるさいほどだ」
「あ……そう」
少し不機嫌そうになったので、ロザリアはそこで話を打ち切り、二人は店を出た。
本当はそのとき、あの誕生日祝い−−楽譜をどうしたか、ジュリアスに聞いてみたかった。けれど、今日はもうこれ以上、苛めるのはやめておこう、とロザリアは思った。水泳だけでも大変だったのだし、と。
ところが。
「水泳だけでなく、ピアノまでも身の程知らずだこと」
呟いて笑うとロザリアは身支度を整え、ヴァイオリンの入ったケースを持つと、音楽室へ向かうべく大急ぎで部屋を出ていった。
作品名:あなたと会える、八月に。 作家名:飛空都市の八月