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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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 「ああ、あの綺麗な人!」あっという間に元気になってシルヴィが言う。「でも、結構厳しくて、ロザリアを叱ったりしておっかない人だったわね、えぇっと名前は……」
 「何だったかしらねぇ……結局あの夏一度限りだったけれど……」
 言ってしまってからミレイユはしまった、と思った。うっかり、話を戻してしまった。
 「だって次の年にはもう」案の定、シルヴィは不満げな表情に変わってミレイユを見る。「ロザリアは聖地に行ってしまったんだも……」
 「シルヴィ?」
 途切れた言葉にミレイユが聞き返したけれど、シルヴィは動きを止めたまま、ミレイユの肩越し−−先ほど大神官が通り過ぎた通路の方を見つめている。なぁに、と振り返ったミレイユもまた、驚愕のあまり口をぽかんと開けたまま、その、目の前を流れていく金色の波を凝視した。
 見た瞬間、思い出した−−その名前を。
 「……ジュリアスさん!」
 ミレイユのその声は、意外と大きかった。とたんに、その波−−黄金色の長い髪の動きが止まった。
 「……まあ!」座席を確認して側にいた老婆が、驚きの声を上げる。「ジュリアス様、覚えておいででしょうか? ミレイユ様と……シルヴィ様ですよ、ロザリア様の」
 「ああ」微かに笑んで彼−−ジュリアスは言う。「スモルニィの友人……であったな、八月の海で会った。覚えている。覚えてはいるが……」
 ヴェールを巻き上げたままの、シルヴィの顔を見てジュリアスは小首をかしげた。
 「さすがに、今のそなたたちは少しわかりかねる……すまない」
 「一度だけですしね」老婆はそう言うと、少し曲がった腰を伸ばしてジュリアスに言った。「ああ、大神官様はあちらです」
 老婆−−確か、ロザリアの乳母だと、ミレイユは思った。それはわかった。
 だが。
 「いまだに身内の葬儀に参列してもらえるとは……ロザリアも良い友を持ったな」老婆の言葉に頷きつつジュリアスは、ミレイユとシルヴィを見て軽く会釈した。「これからも、ロザリアのことをよろしく頼む」
 そして彼は、ミレイユとシルヴィが声を出す間も与えぬまま、コラに案内されて行ってしまった。
 周囲が騒いでいるのはもちろん、ごくごく普通の喪服を着ていても目を惹く彼の容姿によるものだろう。けれど、二人は別の意味で呆気にとられたまま言葉を発することができないでいる。
 二人とも、思っていることは同じだ。
 変わっていない。
 まるで。
 少しも。
 自分たちはどうだ?
 確かに変わったはず。
 何故ならあれから二十年以上経っている−−はず。
 「……何者……なの?」
 ようやくシルヴィが、口から絞り出すように呟く。
 その言葉にぎこちなく頷きながらミレイユもまた、シルヴィともども、祭壇前の通路をコラと共に行くジュリアスの姿を見つめた。