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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆5

 コラは、ジュリアスを大神官の許へと先導していく。
 葬儀に参列している人々の視線が、一斉にジュリアスへ集まってくるのがわかる。そうだ、ごくごく普通の喪服に身を包んだところで、彼の持つ独特の輝き−−神々しさともいうべきものまで覆い隠せはしない。



 出入りの仕立て業者は、一般参列者の中にいたにも関わらず急に呼び出されたけれど、カタルヘナ家と懇意であったこともあり、嫌な顔ひとつせず、館の一室で紳士物の喪服をいくつか用意してやって来た。既製のもので良いと業者の男に告げるとコラは、大事そうに両手に抱えたコットンのシャツを差し出した。
 「上着はこの、シャツのサイズに合わせてくださいな」
 「これはまた……」見るなり男は目をみはり、そっとそのシャツに触れた。「すばらしいものですな……いや、まあ……」
 何か彼がつるつると名称らしき言葉を呟いたのだが、コラにはよく聞き取れなかった。
 「……のコットンを使ってるに違いない、きっとそうだ、ああ、なんて貴重なものを」
 「で……サイズの方はわかっていただけますね?」
 葬儀までの時間も押しているので苛立ってコラが急かすと男は、わかりました、と言ってシャツの採寸を始めた。ほっとしてコラは、シャツではわかりかねる最低限の寸法を記したメモを渡すと、葬儀のための他の準備に取りかかった。そして、再び様子を見に来たそのとき、バタバタと騒々しく部屋に向かって駆けてくる音が聞こえた。
 「コラ! いらっしゃったよ!」
 年老いた執事が、真っ赤な顔をして飛び込んできた。その騒ぎ様にコラと業者の男は飛び上がって驚いた。
 ふだんの彼なら、決してこのような真似はしない。
 無理もない、とコラは嘆息する。執事は大神官をも快適にもてなすことのできるベテランだが、守護聖と接したことなど一度もなかったのだから。
 「コラ……いるのか?」
 執事の後ろからするりと抜けて、ジュリアスが現れた。ジュリアスはいかにもあの海岸からそのままやってきたという風情の生成りの麻のスーツ姿であり、彼以外の全員が黒い服を着る中、明るい色合いで目立った。もっとも、目立つのはそのような服装だけのことではないけれど。
 「用意はできているか?」
 はい、と言うとコラは、ぽかんとしてジュリアスを見つめたままの業者の脇腹を小突いた。
 「あ、あ、た、ただいますぐに!」
 慌てて業者が準備のため動き始める。その間、そこに置かれたシャツに気づいたらしく、ジュリアスはコラの顔を見た。
 「このシャツは、確か……」
 「……はぁ……申し訳ございません……」苦笑して、コラは頭を下げる。「お借りして以降、ずっと預かっていたようでして……」
 「ロザリアか」ふっと笑ってジュリアスが言う。「まさかこのようなかたちで使われようとは……思いも寄らぬことだな」
 あの、ロザリア十五歳の夏、水着を海で失ってしまったロザリアの肩にかけられたシャツを、ロザリアは大事に保管していた。そのことを、クリーニングに出したコラは覚えていて、その後、たまたま他のものをしまおうとしたとき見つけていた。
 確かにあの後、海へ行く機会は去年以外にはもうなかった訳だが、女王試験の間に返すことぐらいはできたはずだ。なのに、このシャツはロザリアのクロゼットの中の、ずっと奥の方へしまわれており、おおよそ返すつもりなどなかったようだ。
 ひたむきで、可愛らしい恋心。
 本当にロザリア様は、ジュリアス様を慕っていらっしゃる。
 できることなら私も、諸手を挙げて応援して差し上げたい。
 けれど−−



 とにかくそのシャツのおかげで、かなりの時間を短縮させてジュリアスは、既製のものとはいえ身に合った喪服を着て、コラの後ろにいる。
 大神官の姿が目の悪いコラにもはっきりとわかるようになったところで、警備らしい男たちが一斉に出てきて二人を止めた。もちろん、荒立てるようなことはしない。あくまでも、こちらへ来ても通り抜けできない、という程度のものである。
 だが、大神官の側仕えの一人が、やって来た老女が今日の喪主の乳母であることを見知っていた。
 「どうされましたか?」
 男たちに引かせると穏やかに尋ねて側仕えの女は、ふとジュリアスに目をやった。そのとたんコラは、彼女の顔色が真っ青になるのを見た。
 さすがに、大神官の側仕えともなると、おわかりなのかもしれない。
 コラは相手の狼狽のせいで、妙に落ち着いてしまう自分を可笑しく思いながらも、ゆっくりと告げる。
 「大神官様にお目通りを……」
 だが、側仕えの女が伝えるべくもなかった。
 たぶん、何事だろうとこちらを見たのであろう。大神官が慌てた様子でこちらへ向かって来るのが見える。
 「コラ、下がって良いぞ」
 その声に、はっとしてコラが振り返って見たときにはもう、そのごくごく普通の喪服を着た青年は、完璧に光の守護聖としての威厳をもってそこに立っていた。
 慌ててコラが身を引く。それとほぼ同時に大神官が来てジュリアスの足許に跪くと、ほとんど床に額から胸までつくほど深くひれ伏した。
 その大神官の辺りから、まるで乾いた布に水が一気に染みわたるように、参列客の驚愕とざわめきが広がっていく。
 平伏する大神官にジュリアスは、全くそれを意に介した様子もなく、大神官を見下ろしている。
 至極それが当然のことであるかのように。