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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆7

 デッキに上がるとロザリアは、すぐ後ろを振り返って手を差し出したけれど、大きく肩で息をしているジュリアスは、いかにも自力で上がりたいと言いたげな顔をしてこちらを見た。どうやら海中から上がってきても、声も出せないらしい。
 そうしてよろよろとデッキに足を踏み入れたジュリアスは、髪ゴムを外して髪をほぐすと、堪えきれず仰向けになり、大の字になってごろりと寝転がった。
 寝転がって、至極満足げに笑った。
 まあ……! なんて嬉しそうに笑っているのかしら。
 つられてロザリアもデッキに寝転がる。辺り一面眩しくて、目を閉じても光が入り込んでくるけれど、それがとても心地よい。
 「よく泳いだわね、ジュリアス」
 「ようやく……辿り着くことができた……な」
 切れ切れに返すジュリアスの方に目を転じると、ひっきりなしに息を吸ったり吐いたりして隆起を繰り返す胸が見えた。その動きの速さにロザリアは、いかにジュリアスが、彼にとって過酷なことをしでかしたのか見て取った。
 肘をついて躰を起こし、改めてジュリアスの様子を見る。デッキに広がった黄金色の髪が日の光に照らされ、まるでジュリアスごと輝いているかのように見える。
 いや、本当に輝いているのだろう、と思う−−光の守護聖であるとかないとか関わりなく。
 小さな布きれが微かに覆うだけの裸体。以前はほとんどまともに見ることはできなかったし、今でも直視しづらいこともある。けれどこの、躰のすみずみまで伸ばしてデッキの上、気持ち良さげに笑いながら寝転がっているのを見ると、そのような羞恥心はむしろ滑稽に思えた。
 それよりは……愛おしくなる。
 触れてみたくなる。
 どんな顔をするのだろう……わたくしが触れたらジュリアスは。
 はたとロザリアは、困った思考に陥ったものだと肩をすくめる。
 少しきつく口づけされたぐらいで震えているくせに……何を考えているのかしら。
 再度、ジュリアスの様子を見る。とりあえず水分を摂らせた方が良いかと判断したロザリアが、立ち上がろうとしたそのとき、腕を掴まれた。
 「……帰るな」
 ぎくりとしてロザリアが振り返るとジュリアスが、なおも強く腕を引き寄せた。引き寄せられてロザリアは、まるでジュリアスの顔を覗き込むような体勢になったけれど、依然として腕は掴まれたままだ。
 ジュリアスの息はまだまだ荒い。荒い中、続ける。
 「帰るなどと……言ってくれるな」
 そう言われてロザリアは、胸が締めつけられる。
 本当に無茶をする。
 いくらここで、あるいは聖地で水泳の練習をしているとはいえ、期間も時間もとても短い。それに、どうせ食事の予約はしてあるのだから、それまで待っていれば良いのに。
 なのに……わたくしを追いかける−−帰るな、と言いたい一心でここまで泳いできた−−
 なんて生真面目で、なんて……不器用な人。
 でもどこか。
 ふっ、ロザリアは笑う。
 同じような、愚かな娘がいたような−−



 「わたくし……」
 まっすぐジュリアスを見下ろしてロザリアは言う。
 「エキストラ・ベッドで寝るのは嫌なのよ」
 ジュリアスが、呆気に取られている。
 「ソファもお断りだわ」
 文句を言おうとするジュリアスに何も言わせず、なおもロザリアは続ける。
 「ましてや、そのどちらかであなたが寝て、わたくしにあなたのベッドを譲る、なんて言うのは、もってのほか……」
 「ロザリア」
 呆れ声でジュリアスの方が遮って、ロザリアの腕を放すと、そのままぐい、と頭を、唇が合わさるほど近くに引き寄せる。ロザリアは、ただそれだけで、びくりと震えてしまう自分の不甲斐なさに歯噛みする。
 「けれど、もっと嫌なのは」
 なおもこれから愚の骨頂極まりないことを言おうとしている自分を真っ直ぐ見つめるジュリアスの視線に堪えきれず、ロザリアは目を閉じる。
 「こんな、なし崩しの形であなたと……『寝て』しまうことだわ」
 口づけて、ロザリアを黙らせようとしたジュリアスも動きを止める。
 情け容赦なくカンカンと、熱い陽射しが、デッキや二人を照りつける中、ロザリアの躰は小刻みに震えている。
 まだ息の落ち着かないジュリアスは、呼吸の合間にため息をつくと、ロザリアの頭からすっ、と手を離してそれを解放した。だがロザリアは離れようとはしなかった。それを幸いにジュリアスは、ゆっくりとロザリアの濡れた髪を撫でつつ、ぽつりと告げる。
 「……なし崩しではない」
 「……え?」
 思わずロザリアは目を開く。すぐ目の下にあるジュリアスの瞳に、自分が映っている。
 「私は知っていた−−そなたの部屋が予約されていないことも、コラが来ないで、そなた一人がやってくることも−−いや……それは正確ではないな」
 話を聞こうと起き上がってロザリアは、ジュリアスを見つめる。
 「どういうこと?」
 「コラが私に言ったのだ。『予約はしない、私は同行しない』と」