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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆11

 ジュリアスと同い年となった二十六歳の八月十六日を、ロザリアは決して忘れないだろう。
 小屋から迎えに呼んだ船に乗って二人が帰った先は、ジュリアスの部屋だった。あの日から八月が終わるまでの二週間ほどの間−−二人の躰が合わさらない日は、一日たりともなかった。
 まるで今までの空白−−決して空白というものではなかったと思うが−−を埋めるか、あるいは乾き切った喉を必死で潤そうとするかのように抱き合い、何度も何度も愛し合った。もうロザリアの躰のどこにも、ジュリアスに触れられていない場所はなく、ロザリアにしてもそれは同様で−−
 膝掛けの上に横たわってロザリアは、ふっと目を閉じる。閉じたとたん、覆い被さってくるジュリアスの、躰の重さを思い出す。あるいは、ロザリアの躰の下、目を閉じて横たわるジュリアスの顔を思い出す。ロザリアの手で触れるたび眉間に細かな皺が寄り、小さくため息にも似た声を漏らす。そして上からジュリアスをゆっくりと包み、締めつけていくとそれははっきりと喘ぎに変わり、短い間隔で口から漏れてくる。
 そのときの表情と声が、ロザリアはたまらなく好きだ。
 けれどそれをロザリアが堪能できるのは、ほんの少しの時間に過ぎない。何故ならあっという間に下から激しく突き上げられ、揺さぶられるだけ揺さぶられて、気がついたときにはジュリアスの胸の上、くたりと突っ伏しているからだ。
 少しは我慢をしてほしいものだわ、と言うと、そのように私にさせなければ良いのだ、と返されてロザリアはむっとする。
 無理を言わないで、だってわたくしはまだ−−



 ぷっ、とロザリアは、吹き出して笑う。
 笑ってそのとき途切れた言葉を、一人なのを良いことに口に出して言う。
 「無理を言わないで、だってわたくしはまだあなたを知ったばかり。あなたに抱かれ、あなたを抱いて、『女』になったばかり」
 そうだ。二十六歳でようやく知ったばかり。なのにあなたがわたくしを攻めたてる前に追い詰めるなんて、とてもできないと言おうとしたら、ふぅ、とため息をついてジュリアスは顔の上、ロザリアの顎を同じく自分の顎でこつんと返しながら不機嫌そうに言った。
 「……私に余裕というものがあるのなら、待ってやっても良いけれど」
 待ってやる、はないでしょう?
 思い出してロザリアは笑う。
 なんてわがままで、子どもじみた言い方だこと。
 昔はもっと、大人だと思っていたけれど−−



 笑うのをやめてロザリアは、たった今、自分が思ったことを反芻<はんすう>する。
 女の方が精神年齢は上なのよ。
 そのように思い直してみても、それは虚しい。
 確実にわたくしは歳を取る−−あともう少しで二十七歳となるように。
 きっとそのうちわたくしは、ジュリアスのやること為すこと、若いから、と呟くようになるだろう。それこそミレイユやシルヴィが、わたくしと会っているときふと漏らす、母のような口調で−−
 まずは姉から。やがて母へ、祖母へ。
 そして。



 「わかっているわ」
 口に出して言う。
 「わかっているわよ」
 まるで誰かに挑むかのようにロザリアは言う。



 わたくしはそういう人を愛した。
 そうなることを知って愛した。



 たとえ年老いていくわたくしを、ジュリアスが疎ましく思って離れていってしまったとしても。
 疎ましく思わないまでも、その愛情が『女』としてではなく、再び『家族』のようなものに戻っていっても。
 やがて海にも行けなくなって、会えなくなっても。
 そうして独り、朽ち果てていったとしても−−



 堪<こら>えきれずロザリアは、仰向けになったまま涙を流した。
 そう、この庭は、このためのもの。
 人前で泣いてはならないという、カタルヘナ家の家族のための救済場所。
 けれどこの庭の門も明日には取り払うから、ここで泣くこともない。
 それに……もう金輪際<こんりんざい>、このことでわたくしは泣きはしない。
 でも今は。
 今は赦して−−



 そのとき。
 ロザリアの、見上げる夜空をきらきらと瞬きながら大きな光が横切っていく。



 ……流れ星!