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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆12

 父と再びこの庭へ来るようになったとき、二人で星を眺めた。昔は父から星の話を聞いていたが、そのころにはもう、星についてはロザリアの独壇場だった。
 たとえばロザリアは、ぴたり、と指差し、その星の名を誇らしげに父に告げた。
 あれがエリューシオン=フェリシア。
 わたくしと……アンジェリークが育成した大陸のある星。
 ロザリアとアンジェリークの命名した大陸の名前が、そのまま使われている。
 あの星にそのような名前がついたことをロザリアは、以前ジュリアスから聞いた。アンジェリークがその名を決めたとき、ゼフェル様は「まんまじゃねーか」と笑ったとか。けれどもはやあの星は、王立研究院ですらそのようにしか呼ばれていなかったからな、とジュリアスも言っていた。
 エリューシオンとフェリシア。そうとしか。
 聞いてロザリアは嬉しくてたまらなかった。
 アンジェリークはやはり人が良い。黙って飛空都市から出ていった、無礼なわたくしのことを赦してくれたのね。
 ロザリアは、アンジェリークを女王陛下とは呼ばなかった。もちろん、外ではさすがに女王陛下と言うけれど、この庭で、あるいは自分一人が思うとき、アンジェリークと呼ぶことにしている。
 尊称のみの存在。
 十六歳のとき、そうなる前に……宇宙の女王となって、ロザリア・デ・カタルヘナという名が消える前にジュリアスに会いたいと思って嵐の中、あの海へ向かった。けれど今、アンジェリークがその存在となっている。だからせめて、ロザリアだけでも−−ロザリアがこうしてこの世に生きている間だけでも−−女王がアンジェリーク・リモージュという名前の少女であったことを覚えておこうと思う。それをときどきロザリアは、よく使う辞書に、栞代わりに挟んでいるカード−−フェリシアとエリューシオンの押し花のカードを見るたび思い返す。
 たとえそれが、滑稽な自己満足であったとしても。



 そういえば、まだ女王候補として召される前、通っていたスモルニィ女学院で特待生として学んでいた頃、流れ星を見かけると、綺麗ね、とうっとりしながら、どんな願い事をしたのと言い合う少女たちを見かけた。そしてロザリアも、ミレイユやシルヴィとランチを共にするようになってから三人で夜空を見たとき、やはり同じようなことをした。
 けれど。
 女王候補になってからロザリアは流れ星を、手放しで喜んで見ることができなくなった。
 あれは星の終末。断末魔<だんまつま>の輝き。
 星に住む者たち自身が、その傲慢さを振りかざして星を壊すこともあれば、サクリアが上手く作用せず、生まれはしたものの生物が根づく前に消えていく場合もある。
 どちらにしても、育成している側からすれば、これほど悲しいことはない。



 ……アンジェリーク。
 再びゆっくりと躰を横たえさせ、空を仰ぎながらロザリアは呟く。
 泣いているかもしれない−−星を救えなかったと。
 あの子、泣き虫だったもの。
 守護聖様方も、肩を落としているかもしれない。
 だけどジュリアスは……次はもっと星を長らえさせると、決意を新たにしているかも。
 ああでも、オリヴィエ様ぐらいは「綺麗だねって見送ってやろうよ」っておっしゃっているかもね。
 わたくしもそう思う。ええ……本当に、綺麗だったもの。
 だから。



 すっ、とロザリアは、仰向けになったまま両手を胸の前で組む。
 組んでくす、と笑う。
 なんだか懐かしいわね。
 あの、フェリシアとエリューシオンを、遊星盤に乗って巡り続けたときのよう−−二つの大陸の子どもたちからもらった花でいっぱいになった遊星盤で、夜中、飛び続けたときの。
 あのときも、そして今も、暗闇の中、花の香りに満ちている。



 どうか泣かないで、アンジェリーク。
 わたくしも、人々と同じくあの星を、綺麗だと誉めることにする。
 もうとっくに流れていってしまったけれど、わたくしなりの、ささやかな願いを込める−−



 わたくしは、歳を取らない。
 わたくしは今このとき、ジュリアスと同い年のまま時を止める。
 ジュリアスによって『女』になった、今このときの。
 いつまでも八月を祝い、ジュリアスを想い続ける−−



 胸の前で組んだ手を解き、目を開いてロザリアは、目の前−−空の真上に来る星座を見やる。この時季、日の変わる頃に空の最も高い位置に来る星座が、もうすぐロザリアの真上に差しかかる。
 ……思うだけは自由だわ。
 ずっとジュリアスと同い年のまま、いられるはずなんてないけれど……だって、あともう少しでわたくしは、ジュリアスの歳を越えるもの−−
 そのとき、門の方からガサガサと、草の擦れる音が聞こえた。はっとしてロザリアは起き上がり、足許に置いたランタンを掴んでそれを持ち上げた。
 持ち上げて……ロザリアはそれを落としそうになった。
 小さなランタンひとつ。後は星明かりのみの暗がりの庭ですら、その髪の色は輝いている。



 「……ジュリアス!」