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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆7

 ロザリアから話を聞いた両親は、驚きはしたもののロザリア自身が招待を申し出たとあればカタルヘナ家としては恥をかかせる訳にはいかないと、ロザリアの父が食堂の夕食を予約するのと同時にコンシェルジュに連絡を取り、ジュリアスに夕食に招きたい旨伝えてほしいと告げた。コンシェルジュからはすぐに連絡があり、招待を受けるとの返答があった。
 そうして、食堂ではもちろん賑やかにではなく密やかに騒ぎが起こっていた。カタルヘナ家と、それに同行している青年の組み合わせは、この日がな海ばかりで少々退屈している滞在客にとっては格好の話の種となったのである。それはロザリアですら感じた。あの老婦人が信じられないと言いたげな表情で、ジュリアスと共に歩く自分たち家族を見たとき、とくに。
 しかしながら、ロザリアですら、同じ円卓ですっかりチェスの話で父と盛り上がっているジュリアスの様子には驚いていた。
 ジュリアスはまだ青年といって良い年頃だった。
 もっとも、この温暖な−−有り体に言えば暑い−−海岸あたりでこれほどきっちりとした長袖のスーツ姿でいる『青年』は、彼の他にはホテルの従業員たちぐらいだろう。昼に見たとき、そして今もそれは変わりなかった。ロザリアの父とて今のように夕食時ともなればそれなりに身支度は整えて出かけるけれど、日中はせいぜい半袖のシャツと綿や麻のパンツ姿だった。それでも、ロザリアの父と対等に話していることに驚いてしまう。それというのも父は良くも悪くも−−敵に回った者に対しては徹底的に手厳しいという意味で−−有名人だから、そうそう『青年』が話せる相手ではなかった。誕生日のことで勢いづいて招待したが、その堂々とした態度に大丈夫だろうと思ってはいたものの、いざ目の前でそれ以上の対応ぶりを見せつけられると、ロザリアはいささか複雑な気持ちになった。
 そういえば。
 「あの」
 大人の話を中断させるものではない、と言われていたことを忘れていた訳ではないが、招待したのは自分なのだということもあり、強気になってロザリアは声を掛けた。
 「ジュリアスさんは十六日で何歳になられたの?」
 「ああ……」ジュリアスは少し考えたようだった。「二十五歳だが」
 その、少し考えた風なのがロザリアには気になった。
 「お若いのにしっかりなさっていること」
 ロザリアの母が決まりきった言葉を、たぶん本気で言った。それについてはロザリアもそう思った。
 「そうだな、私の二十五歳といえば」
 「遊んでばかり」
 言葉を捉えて母が言うと、彼女の夫は顔を顰めてみせた。そしてすっと話を変える。
 「そういえば、あなたはここではどのようにして過ごされているのかな?」
 父の良いところは、年下の者と話すときでもぞんざいな物言いをしないことだ。そして、もう一つ。
 「この食堂の朝食を済まし、街を散策した後は部屋で本を読んでいる」
 「その割には食堂で会わなかったようだが、何時ごろ行っているのかね」
 そう。話を聞き出すのが、上手い。
 「六時に開くので、それと同時に」
 やはり。視線は交わさないものの、両親も同じ事を思っているに違いない、とロザリアは思った。本当はどうでも良いことなのだが、なんとなく思ったとおりなのが面白く思えてロザリアはにっこりと笑った。
 「お早いんですね」
 「ああ、早起きな方だとは言われる」
 「それにしても」ロザリアの母が入ってきた。「本を読んでいるだけなんてもったいないわ。海へは?」
 「水の中に入ったことがないとおっしゃっていてよ、お母様」
 たぶん、こう言うと母がどのような反応を示すかはロザリアもわかっている。
 「まあ、なんてこと」
 ほぅらね。
 「ということは、プールで泳ぐことも?」
 「機会を逸した……というべきか」
 「じゃあ」
 わたくしも言うわよ、とロザリアは身構えた。一緒に泳ぎましょうよ、と。だがそこへロザリアの父が分け入った。
 「おいおい、君やロザリアのように泳いでばかりの方がここでは珍しいのだよ? そう強いるものではないな」
 「あら」母が挑むようなまなざしで夫を見る。「わたくしは何も申していませんが?」
 「言わなくてもわかってるよ」呆れたように言うとロザリアの父は苦笑してジュリアスの方を見た。「どうか気にしないで。カタルヘナ家の女たちは、泳ぐことがこの海岸にいる誰よりも好きだからついお節介を、ね」
 そう言ってからロザリアの父はぽん、と手を打った。
 「そうだ。暇にしているのであれば」
 「え?」
 彼には良いところと同時にもちろん悪いところもある。
 「あなた」と妻がたしなめ、「お父様」と娘の非難めいた声も無視してロザリアの父は抜け目なく、あるいは強引に言った。
 「君もせっかくだから、海際の砂浜でチェスをしないか?」
 「それこそご迷惑だわ」そう言うとロザリアの母は笑ってジュリアスに声をかけた。「どうか気になさらないで。この人とチェスの相手なんかしていたら、貴重な休暇を一日費やしてしまいましてよ」
 「ほぅ?」
 ジュリアスが笑った。
 ロザリアは目を瞠る。
 初めて見た−−不敵な笑い。
 ロザリアの父も気付いたのだろう。
 「自信ありげのようだが?」
 「いや」一瞬にしてジュリアスの表情は元に戻った。「だが、今日の招待の礼代わりに相手をさせていただこう」
 ロザリアと母は思わず顔を見合わせた。