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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆4

 ゼフェルの話はこうだ。
 「去年の八月の後、何か妙にジュリアスがボケてっからよ、おめーと何かあったのかってオレはかるーく聞いたつもりだったんだ、ところが」
 もろにジュリアスの顔にそれが出た、とゼフェルが言って笑った。あまりにも素で出たからこっちの方がビビったぜ、とも。
 去年の八月−−あまりにも思い当たる節の多さに、思わずロザリアも赤面する。それを可笑しそうに見ながらゼフェルは話を続ける。
 いきなりジュリアスが、ゼフェルに問いかけてきた。
 「ロザリアが飛空都市から出る前、私が八月に会えると言ったとき、ロザリアはどのような表情をしていたというのだ?」と。
 ああ、あれか、とゼフェルは思い至る。ロザリアが飛空都市から出るとき、ジュリアスが律儀に言った『次の次の八月に会える』という言葉をロザリアに伝えたときのこと。
 「え……?」
 「おめーには、かなり前の話になっちまったかな」苦笑してゼフェルは言う。「けど、オレは覚えてる。ロザリア、おめーはそうオレが言ったとたん大笑いしたんだぜ、『何ですの、それ?』とか言いながら。でも」
 大笑いしながら、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
 しかも、本人にはまるでその自覚がない。
 「オレよ、そのことをジュリアスには『もったいない』って言ってずっと黙ってたんだ」
 どうして、と尋ねるロザリアの瞳に応えるようにゼフェルは続ける。
 「だってあの野郎、全然わかってねーからよ。オレならそんな風にされたら絶対」
 ロザリア本人を前にして、今度はゼフェルの方が少し頬を紅潮させた。
 「……手放したりしねぇ」
 「ゼフェル様……」
 「でも」ロザリアの言葉を遮るようにゼフェルは言う。「あのときは妙にジュリアスがマジな表情で尋ねるもんだからよ、惜しまず教えてやったんだ、教えて『な? 手放したくなくなるだろ?』って冷やかしたら」
 くく、とそのときのことを思い出してゼフェルが笑う。
 とうとう、言いやがった。
 「そうだな……手放したくはなくなる……な」と。
 ロザリアを見ないまま、ぽつりとゼフェルは言う。
 「オレ、それを聞いたとき……ああ、こいつもヒトの子なんだなって思ったんだ」
 その言葉にロザリアは微笑む。
 「だからわたくし、ジュリアスの八月を祝うんですわ、ゼフェル様」
 はっとしてゼフェルがロザリアを見る。
 「おめー、それって……」
 「ジュリアスから聞きましたの」
 さらりとロザリアは、女王試験前のジュリアスとゼフェルの確執について、それ以上のことには触れず答えた。
 「……そっか」照れくさそうな表情になってゼフェルは言う。「何で手放したくないのに別れ別れに暮らすのか、やっぱりオレにはわかんねーけど……それなりには上手くやっていけてるってワケだな」
 「ええ」にっこりと笑ってロザリアは答える。「八月には会えますし」
 「またそれかよ」ぷっ、とゼフェルが吹き出す。「勝手にしやがれ」
 そう言ってゼフェルがエア・カーに乗り込んだとき、ふと強い思いに駆られてロザリアは、運転席にいるゼフェルの顔を見た。
 「ゼフェル様」見て、告げる。「ジュリアスのこと……よろしくお願いしますね」
 もしかしたらもう、ゼフェルには会えないかもしれない。
 だから、今のうちに。
 「な、何、改まって言ってんだよっ」狼狽えてゼフェルは叫ぶ。「心配すんな、おめーみたいな女、そうそうくたばったりするかよっ!」
 そう叫ぶとゼフェルはエア・カーを起動させ、あっという間に行ってしまった。