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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆5

 「そうよね……」シルヴィが、ロザリアの顔をじっと見つめながら言う。「そうそう『くたばる』ことはなさそうね……」
 「シルヴィ」呆れたように横でミレイユが口を挟む。「いい歳して、なんて口の利き方を」
 「いいじゃないの、守護聖様がそうおっしゃってるんだし」
 今度はとりあえず小声で言うシルヴィに、ロザリアは思わず笑ってしまった。
 「ゼフェル様は十七歳なんだから……もう私たちから見れば孫の歳よ」
 そう言ってからミレイユもまた、ロザリアを見てため息をつく。
 「でも、そうねぇ……『くたばる』かどうかはともかく」
 「ミレイユだって言ってるじゃないの」
 席を立とうとしてシルヴィは、きっちり横やりを入れるだけ入れて行ってしまったので、残った二人は顔を見合わせて笑った。
 そうして笑いながらもミレイユは、本当に感心したように呟く。
 「でもロザリア……あなた本当に、歳を取らないわね」



 それは。
 本音を言えばロザリア自身こそが自覚し、疑問に思っていることだった。
 確かに、飛空都市を出てからしばらくはそれなりに歳を取ったと思う。別に老けたとかそういう意味ではなく、その年相応の顔になったと。
 けれど。
 気がついたのはこの、ミレイユとシルヴィと交流を持ち始めてしばらくしてからのことだった。二十歳のとき、父の葬儀でほぼ二十年ぶりの再会を果たした彼女たちの様子は、少し若い母といえるものだった。だがやがて彼女たちは、どう贔屓目に見てもロザリアの、祖母としてしか映らなく−−
 もちろん世間には、見かけでは一切歳のわからぬような者はいくらでもいる。たぶん自分もその一人なのだろう……と思い込むにはあまりにも、ロザリアには思い当たることがあった。
 わたくしが女王候補だったということ。
 女王候補だったということは、女王のサクリアと呼べるものが自分の中で、それなりに存在しているのでは−−存在していなくとも、何か作用しているのではないかということ。
 それをロザリアは、ジュリアスと会ったときに尋ねようと思った。だがいざ尋ねようとすると、それを思い留まらせる自分も存在した。
 知りたくもあり、知りたくもない。
 妙な期待を持って生きたくはない。
 もしかしたら自分は本当に……あの夜、流れ星に向かって願ったように、ジュリアスと同い年のままでいられるのではないか、などという−−
 そう思うたび、ロザリアは苦笑する。
 わたくしの目の前で、時は普通に流れている。たとえば他人の一分も、わたくしの一分も同じ六十秒だわ。世間と同じく八月を迎え、海辺のいつものホテルへ行っては、美味しい朝食を楽しむ−−あのパンを焼いていた職人が亡くなってしまって、少々食感が損なわれてしまったのは残念だけど。海際の砂浜のテントの中、酔狂なチェスを楽しんだり、あの小屋まで泳いだりする。あえて違うことといえば、わたくしより多少遅れてでもジュリアスも小屋まで泳ぎ着き、岸へ戻ることができるようになったということぐらいで……。
 だからそれこそ、ジュリアスと会える八月がとても楽しみだから……としか。
 ロザリアはそこで、小さく肩をすくめる。
 それこそ、非科学的な根拠だわね。



 「ちょ、ちょっとロザリア!」
 ぱたぱたとシルヴィが、小走りして戻ってきた。
 「騒々しいわねぇ、シルヴィ。ここはゆっくりと時を過ごす場所なのよ」
 再びレース編みを始めたミレイユが、シルヴィの顔も見ずに言う。
 「まあどうしたの、シルヴィ」
 微笑んでロザリアが、シルヴィのために椅子を引いてやろうとしたそのとき、ふと流した視線の先。
 そこに−−否。
 聖地外<ここ>に……いるはずのない−−
 「お手洗いに行って帰りがけ、長い水色の髪の、とても綺麗な男の人を見たのよ。で、その人が」そこまで一気に喋ってシルヴィは、ロザリアの動きが完全に止まってしまっていることに気づいた。「……ロザリア?」
 その呼びかけにミレイユも編み物の手を止め、ロザリアを見る。そしてそのロザリアの、呆然としたまなざしの先を見る。
 「あ、あの人よ。あの人がホテルのコンシュルジュに『ロザリアはどこにいますか?』と尋ねているのを聞いたのよ」
 小声になってシルヴィは、もはや全く話を聞いていないらしいロザリアに代わり、ミレイユに向かって告げた。
 すっかり年老いてしまったコンシュルジュに案内されて、彼らはこちらへやって来る。
 そう。
 『彼ら』だ。
 水色の髪の男−−リュミエール。そしてその脇にいるのは。
 立ち上がってテーブルから離れるとロザリアは、コンシュルジュがこちらを指し示している相手に向かい、腰を深く落として跪く。
 ぎょっとして、ミレイユとシルヴィがロザリアを見た。
 「な、何? 知ってる人?」
 そう慌てて尋ねながらシルヴィと、同じく頬をひきつらせたミレイユにしても、わかっている。ロザリアが頭を下げる相手など限られている。もはやロザリアは、この主星の大神官すら一目置く存在であり、そうそうこのように最敬礼をする相手など、実質上はいないからだ。
 たぶん、聖地におわす方々。
 男性が守護聖様とすると、その横にいる少女は−−?
 「……スモルニィの……わたくしたちの同級生よ」
 極めて小さな声でロザリアは、シルヴィの質問に答える。その言葉に二人は大きく口を開き、声にならない悲鳴を上げた。



 跪いて頭を垂れる刹那に見た顔は、ロザリアを認識してぱっと明るく輝いたのも束の間、すっ、と悲しげな表情に変わった。その表情を見た瞬間ロザリアは、すっくと立ち上がると同時に両腕を広げてみせた。
 とたんにその沈んだ表情が一気に明るいものとなり−−本当に輝いて見える、とロザリアは思ったときにはもう、かつて『天使様』と呼ばれた少女−−この宇宙を統べる女王はロザリアの腕の中へ飛び込んでいた。
 「あなたにとても会いたかったの……ロザリア」
 そう言われてロザリアは、少し目の下にあるふわふわとした金髪の巻き毛を撫でながら小さく呟く。
 「わたくしもよ……アンジェリーク」
 その言葉にびくりとして少女−−アンジェリークは顔を上げた。もともと大きな瞳を、殊更に大きく開いてロザリアを凝視する。けれどすぐにあの、女王候補の頃のままの笑顔を見せた。
 「嬉しい……名前で呼んでくれて……」
 しかし、そこまでで精一杯だったらしい。あとはもう、やはり女王候補の頃のまますぐ泣きじゃくって、ロザリアに抱きついた。