あなたと会える、八月に。
◆7
指輪を返せだなんて、何か怒らせるようなことをしたのかしらとロザリアが思い悩む割にアンジェリークは、至極機嫌良くホテルの様子をきょろきょろと見ながら歩いている。そうして部屋−−ジュリアスと共に過ごす部屋−−へ戻るとそこにはジュリアスとゼフェルがいた。
ゼフェルはやはり、あの指輪を持ってきてくれた頃のままだった。ずっと変わらないままのジュリアスで慣れているものの、アンジェリークを見たとき同様ロザリアは、不思議な感覚に囚われる。
だが今日は、ジュリアスこそが違った雰囲気に見えた。
何がどう、ということもない。ただ……人前であんな風に穏やかな顔をして自分を見つめたりしない。二人だけのときならともかく−−ましてや女王陛下の御前で。
ただそれを疑問に思う間もなくロザリアは、気の重いことを思い出す。部屋に設置された小机の引き出しからロザリアは、柔らかな革製のポーチを取り出し、そこにある指輪入れの中から一つの指輪を引き抜いた。
思えば、八月と、あとはロザリアの誕生日のある十月頃以外はもうすっかりロザリアの躰の一部のようになった指輪だった。それ自体を返すことも辛かったが、それよりロザリアは、それを自分に贈ってくれたアンジェリーク自身から、返して欲しいと言われたことの方がずっと堪えた。
ロザリアが戻ると、部屋の大きなテーブルの前にはすでに、アンジェリークとリュミエール、そしてゼフェルとジュリアスが座っている。座って……ロザリアを見つめている。
何なのだろう、とロザリアは思った。
何だか、皆の−−ジュリアス含め−−まなざしがとても真剣で、それでいて……優しい?
同じくテーブルにつくとロザリアは、指輪をアンジェリークの前に差し出した。
「謹んで……お返しいたします……」
悲しくてつい沈んでしまった声で言うロザリアに対し、アンジェリークはにっこりと笑ってそれを受け取った。そして、受け取るなりそれをゼフェルに渡した。
「ゼフェル、よろしくね」
「おう」
その行動にぎょっとしたロザリアが声をかける間もなくゼフェルは、渡された指輪に持っていた細い工具を当てて、石を外してしまった。
「あ、あの……っ?」
「ロザリア」
そう呼びかけるとジュリアスが、黙って首を横に振ってみせた。
そうこうしている間にもゼフェルは、持ってきたらしい別の石−−だが色も形もそっくりの−−を再び台に嵌め込んだ。
「できたぜ」
そう言うとゼフェルは、それをアンジェリークに渡す。笑顔のまま指輪を受け取ったアンジェリークはジュリアスを見た。
「……ジュリアス」
そう呼んだときのアンジェリークのまなざしにロザリアはどきりとした。そこに、先ほどまでの少女の笑顔はない。
そこにいる……おわすのは−−
「はっ」
椅子から立ち上がるとジュリアスはアンジェリークの側に行き、足許に跪いた。
「これをあなたに与えます」
「……陛下」
「あなたからロザリアにあげてください」
その言葉に、ロザリアは息を呑む。
作品名:あなたと会える、八月に。 作家名:飛空都市の八月