あなたと会える、八月に。
◆9
それはアンジェリークが女王になって、初めて迎えた一つの星の終焉だった。
どうにかくい止めたいと思っていたのに、それが果たせなかった。もうすぐあの星は砕けて落ちる−−アンジェリークはそれがとても辛くて、星の間で一人、泣きじゃくっていた。
それでも、一方では嬉しい話もあった。
ジュリアスから聞かされた、ロザリアとの話には驚かされ、それと同時にとても感動し−−疑問にも思った。
どうして一緒に暮らさないのだろう。
私、そのためだったら、女官でも王立研究院でも……ううん、ロザリアなら補佐官になってもらってもいいと思っている。それなのに。
「どうして? だってジュリアスだって、ロザリアと一緒にいたいって思うでしょう? このままじゃあなた」
……ロザリアを見送るしかない−−
そのときのジュリアスの言葉を私は忘れない、とアンジェリークは、ひどく真剣な表情でロザリアに向かい、言った。
「本音を申せば……」一瞬のとぎれのあとジュリアスは、思い切ったようにアンジェリークの前で吐露した。「手放したくありません。このまま引きずってでも聖地へ連れ帰りたい。このまま……同い年の今のまま……ですが」
謁見の間でない、こじんまりとした控えの間でジュリアスは、片膝をついたまま少しだけ親しげにアンジェリークに向かって告げる。
「あなたが宇宙を統べる女王で、私が光の守護聖であるように、ロザリアはカタルヘナ家の主。どのようなものであっても……その役目の負う義務や責任に軽重の差はない−−」
だから、各々の場所で生きるのだと。
けれど、八月には会えるので、とジュリアスは、とても嬉しそうに言った。
なんと、この私の誕生日を祝ってくれるのですよ、幼い頃からずっと、と。
「何とかしてあげられたら、と思っても、どうにもならない。私、とてもそれが歯がゆくて、星のこともあって本当に辛かった。そうしたら」
いきなり、声が聞こえた。
『どうか泣かないで、アンジェリーク』
それまで唇を震わせたままどうにか涙を堪えていたロザリアの、瞳が大きく開かれる。
「そ、それは……!」
「私も驚いたわ」微笑んでアンジェリークは続ける。「でもほら、考えてみればあなたが星に願いをかければ、それは私にも聞こえるの。それはエリューシオンとフェリシアのときと一緒」
あの、新宇宙への星の移行の際、守護聖とアンジェリークが星の間に籠もっている間、一人フェリシアとエリューシオンを巡り続けたロザリアが、サクリアを与えてほしいと願ったとき、それはアンジェリークにそのまま届いた。
それと一緒。
「だから」真っ直ぐロザリアを見つめ、アンジェリークは告げる。「その後の、あなたの願ったことは全て聞こえたの」
わたくしは、歳を取らない。
わたくしは今このとき、ジュリアスと同い年のまま時を止める。
「あ……」
「その後も聞こえちゃった」肩をすくめ、アンジェリークは悪戯っぽく笑う。「私にはちょっと……刺激的だったけど」
思い出して、一転、顔を赤くしたロザリアが思わずジュリアスを見た。そのジュリアスが苦笑して小さく肩をすくめてみせたから、ますますロザリアは赤くなった。その様子を笑って見守りつつアンジェリークは話を続ける。
「とにかく私は、全力を尽くしてその願いを叶えなければいけないと思ったの。で、思いついたのがこれ」
ゼフェルから石を受け取るとアンジェリークはそれを掌に載せ、ロザリアの目の前に広げてみせた。
「何か、見える? 何か、感じる?」
「え……あの」今さらながらロザリアは、受け取って以来、長く付き合った石を見つめた。けれど。「いいえ……わかりませんわ……」
「……でしょうね」ふっと笑ってアンジェリークは、それをリュミエールに見せる。「リュミエールはどう?」
穏やかに笑ってリュミエールは、ロザリアと石を交互に見つつ言う。
「陛下の……女王のサクリアの迸<ほとばし>る様がよく見えます」
横でゼフェルが笑って言う。
「すっげー勢いだぜ、陛下の元気っぷりと一緒だ」
「もう、ゼフェルってば」
笑ってアンジェリークはそう言うと、再びロザリアを見る。
「確かにあなたは飛空都市から何も言わず出ていった。だから私の……サクリアの力の及ばない所で、聖地の外の時の流れを生きるようになった。けれど」
ロザリアを見つめる、人なつこい笑みが、厳かなものへと変化していく。
「女王候補だったあなた自身の、願う声は私に届き続ける。そしてそれは逆に、私のサクリアの影響を十二分に受けることができるということ」
だから、そのための縁<よすが>を与えた。
ルヴァに頼んで、女王のサクリアを含めやすい石をいくつか選んでもらい、そこからあなたに合う色合いのものを選んだ。
できるだけ急いで。
なるたけすぐに。
あなたがジュリアスと同い年であった時から遠くならないうちに。
「でもどこまで作用するかなんて、私にもわからなかったんだけど」肩をすくめてアンジェリークは笑う。「だからときどき、その指輪に向けて私のサクリアを与えていたの……聖地とは異なる時の流れにありながら、そこにいても歳を取らない私や、守護聖たちのようにあってほしいと」
作品名:あなたと会える、八月に。 作家名:飛空都市の八月