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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆3

 「それが、そなたの言う『素敵な水着』なのか? ロザリア」
 憤然とした表情でジュリアスが言い放ち、横でシルヴィとミレイユは、まるで自分たちが叱られたかのように身をすくめてテントの隅に立っている。
 「そうよ、いけなくて?」
 だからジュリアスの威圧感に負けず、そう堂々と言ってのけるロザリアをすごい、とシルヴィすら真剣に思っていた。
 ジュリアスはコラを見た。コラは緊張した面持ちでジュリアスが言葉を発するのを待った。主が怒ったときもそれなりには怖いけれど、このような若い青年の醸し出す雰囲気に呑まれるとは、長年カタルヘナ家で働いてきた自分らしくもないと彼女自身思っていた。
 「主夫妻も、自分の娘がこのような品のないものを着ているのを良しとしていると言うのか?」
 コラが応えるまでもなく、パシンと乾いた音がした。
 「あなたにそのような暴言を吐かれる筋合いはなくてよ、ジュリアス!」そう叫ぶとロザリアは、困惑した表情で立っているシルヴィとミレイユの腕を掴んでテントの外に引っ張り出した。
 「行きましょう! 不愉快だわ!」
 「ロザリア様!」
 コラが叫んだけれど、ロザリアは一瞥もせずにテントから出ていってしまった。後に残されてしまったコラはどうしたものかと思ったが、少し頬を赤くさせたジュリアスの、まったく動揺した様子のない表情に内心驚いた。
 ホテルが各テントに設置しているクーラーボックスから冷えたハンドタオルを取り出すとコラは、それをジュリアスに差し出した。
 「あの……」
 「私としたことが」タオルを受け取るとジュリアスはそれを頬にあてがいながら、微かに苦笑して言った。「どうやら踏み込み過ぎてしまったようだな」
 コラは、その言葉ひとつで、この『どこの誰とも知れぬ若者』に対し、妙に親しみを感じた。
 確かに、コラですらロザリアの水着姿を見た瞬間、絶句した。
 今までなら、彼女らしく華やかで綺麗な色合いながら、泳ぎやすいデザインと素材の水着を好んでいた。なのに、今年の夏のそれは違った。セパレートで、上も下も、薄いレモンイエローの、気を付けていないともろに身の下が映りそうな小さな布地であてがわれ、しかも細い紐で結んでおくしかない、頼りないものだった。だから、ほんの少ししかない布を剥がしてしまえば、ロザリアはもう裸だと言っても過言ではなかった。
 コラにしても、ホテルの部屋で見ていれば、自分が大切に育て上げた可愛い娘にこのような扇情的な姿を曝させたりはしなかった。ずっとコットンのふんわりとした白いスモッグ風の短い丈のブラウスを着て、澄み切った青のパレオを腰に巻いていたので、テントでそれを取り外すまで彼女も気づかなかったのだ。
 いや……ロザリアがそれなりの年齢の、成熟した女であればそれはそれで様になって似合っていただろう。だがまだ彼女は十五歳で、しかもたぶん、何も知らない−−
 コラは小さくため息をついた。
 「確かに……若い娘が殿方に水着姿を見せたときへのおっしゃりようとしては、少々きつくはありますが……」
 コラが言いかけたところでジュリアスが、海岸のテント付近を巡回しているボーイを呼び止めてミネラル・ウォーターを注文し、コラに目線で尋ねるとコラは控えめに「それではアイス・レモンティを」と告げて続きを言った。
 「……残念ながら私もあなた様のおっしゃるとおりだと感じています……ジュリアス様」
 頬を冷やしていたタオルを、腰を降ろしたデッキチェアの肘置きに引っ掛けるとジュリアスは、ボーイの持ってきたミネラル・ウォーターの瓶とグラスを受け取りながら言った。
 「どうしたのだ、いったい。まったく彼女らしくない。自身に誇りを持っているのは彼女の良いところだが、それ以上に妙な奢りが見られる」
 よそのお嬢様のことなのに、どうしてこうもきつく言えるのだろう−−なのにそれはどうして他人ながらとても真摯な言葉として自分に快く響くのだろうとコラは不思議に思った。まだ漠然としてはいるけれど、主たちカタルヘナ家の人々が彼を受け入れたことがなんとなく、わかってきたような気がした。
 アイスティを一口こくんと飲むとコラは意を決して言った。
 「何故、ロザリア様があなたにお話なさらないかわからないので、私から申し上げるべきかどうかとは思いましたが」
 コラの言葉にジュリアスは訝<いぶか>しげに彼女を見た。
 「……今年の春、奥様……ロザリア様のお母様が他界されたのです」
 ジュリアスの手から、ミネラル・ウォーターの瓶がするりと滑り落ちた。その瓶から水がどくどくと流れ出て、あっという間にそれは砂に吸い込まれていく。