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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆8

 「雲行きがいちだんと怪しくなってきたな」
 テントの外、上空を見回しながらジュリアスが言った。どんより曇ってきたせいで、海岸にいる人の数は減っている。シルヴィとミレイユも先にホテルへ戻ってしまい、テントにはジュリアスとコラがいた。
 「私がおりますから、どうかジュリアス様は」とコラが気を利かせて言ってみたが、ジュリアスは約束したのだからと言って残っていた。そして小屋のある方向を見る。
 しばらくして、白い人影が見えた。
 「ああ、どうやら着いたようだな」
 明るい口調でジュリアスが目を細めつつ言う。その言葉にコラもひと安心だった。
 「三十分以内で着いているな」
 手元の小さな懐中時計を眺めつつ、ジュリアスが言った。
 「計っていらしたんですか?」
 「一応はな」
 まったく律儀な人だと思いつつコラは、くす、と笑った。
 「海にロザリア様を行かせてくださるよう主に進言したのは私なのですよ」ぽつりとコラは告げた。「少しでも何かのきっかけにならないかと思って。お友だちも誘うように申してみましたら、久しぶりにロザリア様が喜ばれたのでほっとしていたのですが」
 「大丈夫だ」少し強くなった風に髪をなびかせるままにしてジュリアスが言う。「賢く、誇り高い娘だ。こちらに戻ってくるころには落ち着いているだろう……ただし」
 これほどきっぱりと、ジュリアスがロザリアのことを誉めるのをコラは初めて聞いた。まるで自分のことを誉められたような気がして、コラは思わずにっこりと笑いかけたが、『ただし』と言われたので、思わず笑顔を引っ込めた。
 「とりあえず、あの水着はどうにかしてくれ」
 「はあ……」落胆半分、可笑しさ半分でコラは頷いた。「それは私もそう思います……」
 「あ」風に流される髪が鬱陶しいのか、すっとなでつけるようにして掌で押さえつつジュリアスは声を漏らした。「もう海に入ったのか? 早過ぎないか?」
 言いながら再び手元の懐中時計を見た。
 「ロザリアがあがったら、私たちもホテルに戻ろう」
 「はい」
 雲が厚くなるにつれ、ますます海辺から人がいなくなってきた。それと同時にジュリアスの、懐中時計を見る回数が増えた。
 「遅い」
 「疲れていらっしゃるのでしょうか……」
 コラも心配になって、少し高くなりつつある波を見つめた。
 「見てくる」
 そう言うとジュリアスは懐中時計をパンツのポケットに戻し、波際の方まで歩いていった。足元のサンダルがさく、さく、と砂を蹴っていく。
 ロザリアが十二歳、十三歳のときまでジュリアスは、砂浜でもきちんと靴を履いていたと言ってカタルヘナ家の人々は笑っていた。
 「砂がいっぱい入るのにね」
 「およそ休暇を楽しむような格好じゃないんですもの」
 「今年やっと、海に行くときに皮のサンダルを履いてきたんだ」主がそう言うと彼の妻が頷いて接いだ。「でもそのサンダル、とてもシンプルだけど素敵なのよ。でも彼は『いつもはこれだから、なんとなく気分が変わらなくてつまらない』なんて言うのよ? 可笑しいわよね」
 ジュリアスがきっちりとした格好をしているのは、ふだんあまりにもラフな格好なのでその反動ではないか、と彼らは言い合って大笑いしていた。
 あのときに戻ることは無理だ。でも、せめて父娘の二人だけでも、少しは話ができるようになってほしい、とコラは思っていた。
 しかしその想念は、ジュリアスの叫び声で破られた。思わずコラも波際へ小走りで駆け寄った。