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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆6

 ロザリアを抱き上げると私はカフェに入り、先程の店の者に、馬の像のことを尋ねた。像自体は、周辺のホテルにいくらでもあるが、馬の右足が光っていると付け加えると、ああ、と言って笑った。合点がいったらしい。店に出て彼は、指差しつつホテルの名前と、道を私に告げた。私は彼に礼を言うと、教えられた道を辿り始めた。
 歩き始めるとようやくロザリアは私の首筋に埋めていた顔を上げた。そして、どうやら見晴らしが良いらしい私の肩越しに見える海を見たようだ。
 「なんて綺麗なのかしら!」
 言われて私もそれを見る。その喜びに満ちた言葉を伴うと、海は輝きを増したような気がした。
 「早く泳ぎたいわ……」
 「ほう……そなたは泳げるのか?」
 「少しだけ。でも海は初めて!」そう言う顔に生気が戻っている。「お母様が教えてくれるの。お母様はそれはそれは綺麗に泳ぐのよ」
 その明るい言い様に私もつられて笑った。
 「そうか。それでは海に行くのが楽しみだな」
 こっくり頷いたロザリアはしかし、ハッと気付いたように私を見た。
 「ありがとう、もう降ろしてもらっても」
 道がわかるまでという約束だからと、律儀にロザリアは言う。
 「だがそなたは、ホテルからずいぶん遠くへ歩いてきたからな」
 店の者は、大人の足でも三十分はかかると言った。エア・カーに乗ればすぐだが、街の中は禁じられている。あくまでも外からこの海岸に来るときのみ使用が許されているのだが、それはそうだろう。このような中をひっきりなしにエア・カーが行き来していては、ゆっくり海岸で休日を過ごすことなどできはしない。
 まあ、私の足ならもう少し短縮できるだろう……今のロザリアなら一時間以上は軽くかかってしまうかもしれないが。
 「ごめんなさい……」おずおずとロザリアが言った。「海やお店を見ているのが楽しくて、つい……」
 そう言って再びロザリアは顔を私の肩に伏せかけたが、それではいけないと思ったのだろう。再び私の顔を見た。
 「……どこにいるのか、わからなく……」
 語末が消え入りそうだ。本当は言いたくなかったのだろう。思わず私は片方の手を外すとロザリアの頭をすっと撫でた。
 「潔いな、ロザリアは。偉いぞ」
 私は、私自身がそう言われると実は嬉しかった言葉をロザリアに言ってみた。もっとも、潔いという言葉が幼いロザリアに通じるかどうかわからなかったが。
 案の定、ロザリアは一瞬戸惑ったような表情をしたが、私が真面目に誉めているとわかったのだろう。顔をほころばせた。
 「良い」私はまたロザリアにつられて笑った。「そなたは道に迷ってなどいない。少しこの海岸や街を楽しんでみただけだ」
 その言葉にロザリアは、驚いて私を見ていたが、やがてにこりと笑って頷いた。