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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆5

 横でゼフェルが素早くエア・カーから降りた。
 「ジュリアス、これはオレが!」
 だがジュリアスはゼフェルを一瞥すると、すっと運転席側のドアへ近づきそれを開いて、中へ手を差し伸べた。
 一瞬、ジュリアスと目が合う。
 懐かしさにロザリアは思わず、ジュリアス、と呼びかけそうになったが、その様子をゼフェルが呆気にとられて見ているのに気付き、辛うじて押し止めた。
 「わたくしが運転しておりました、ジュリアス様」
 差し出された手に自分の手を置き、触れた懐かしい温かみに内心動揺しつつ、エア・カーから出るとロザリアは、どうにかさらりと言ってみせた。
 「そのようだな」
 短く応えるとジュリアスは、その手を放した。とたんにロザリアは、自分ごと放り出されたような気がして、微かに頬が引きつるのを感じた。
 「ロザリア」
 「はい……申し訳ございません。ゼフェル様にもご迷惑を掛けてしまって」
 気落ちするのを押し止めつつロザリアは、それでもどうにか冷静さを装いながら言った。
 「いや、オレがやったんだ」擁護されていると知り、ゼフェルは慌てて横から叫んだ。「こいつは悪くねぇ!」
 ジュリアスはゼフェルの方を見た。
 「ゼフェル」
 「何でぇ」
 明らかにロザリアが運転席にいたものを、声を荒げて自分がやったと言い張るゼフェルにロザリアは呆れつつも、微笑ましく思ってしまって少し表情を緩めた。
 そしてそれは、ジュリアスも同様だったらしい。
 ……飛空都市で笑っているの……初めて見たわ。
 「そなたが聖地や、この飛空都市であのような酷いスピードでエア・カーを走らせているところなど、私は見たことがないが?」
 暗に自分に向けた叱責であるものの、そうジュリアスが言ったときのゼフェルの、一瞬虚を衝かれたような表情の方が、ロザリアは気になった。
 「そ、それは」加えて、ジュリアスが微笑んでいることに、どうやらゼフェルこそが驚いているらしい。口ごもりながらも続ける。「ちょ、ちょっとこいつに、いいところを見せようかと……」
 「ほう?」
 可笑しそうに言うとジュリアスは、それ以上ゼフェルには何も言わず、再びロザリアを見た。そのときにはもう笑ってはいなかった。
 「ロザリア」
 「おい、ジュリアス!」
 無視された格好のゼフェルが叫ぶものの意に介せずジュリアスは静かに言った。
 「そなたがエア・カーに乗っているのを見るのは、心臓に悪い」
 静かに−−それはゼフェルが叫んでいる刹那、その声に紛れるかのように極めて静かに。
 「えっ?」
 驚いてロザリアはジュリアスの顔を見上げる。ジュリアスの表情はなんら変わらない。けれど、今だから……今こそ、わかる。
 ジュリアス。
 あの十六歳の八月、わたくしのことをとても心配してくれていたのね。まるで父、あるいは兄−−そう……『家族』として。
 それは嬉しいことであり、寂しいことでもある。そして辛い……なのにささやかながらも、幸せだと思える。
 「女王候補としての自覚を持つのだな。以後、気を付けよ」
 ごく普通にそう言うとジュリアスは、ようやく叫んだままのゼフェルを見た。
 「もう遅い。ゼフェル、ロザリアを寮へ送れ」
 「え、あ……」もっと厳しく言われると思っていたらしいゼフェルはあてが外れたかのように怒らせた肩を落とした。「あ、ああ……わかったぜ」
 「ではな」
 すっと側を通り過ぎていく。
 見慣れた後ろ姿−−守護聖としての正装姿は見慣れないが−−いつも後ろ姿を追いかけていたような気がする。それが遠ざかろうとする。ロザリアは意識しないまま手を前に出した。追いかけて、その背に手をあてがい、引き止めたい思いがそうさせた。
 「ジュリアス!」
 まるでそんなロザリアの思いを見透かしたか−−いや、そのようなことはないだろう−−ゼフェルが声をかけた。
 「何だ?」
 「執務かよ?」
 歩みを止めてジュリアスはゼフェルの方……つまりロザリアの方へ再び躰を向けた。
 「そうだ。日中は陛下からのお呼びで聖地へ戻っていたから、いくつか処理を残してしまっている」
 「じゃあ……行かなかったのか?」
 微かにジュリアスの表情が硬くなった、とロザリアは思った−−ロザリア自身もそうであるように。
 「……なに?」
 「今日は、行かなかったのかって……隔週土の曜日の」
 一瞬、ロザリアとジュリアスの視線が絡み合う。
 隔週土の曜日−−主星での八月。
 「……知っていたのか」
 呟くように発したジュリアスの言葉にゼフェルは、ぶんぶんと首を横に振った。
 「あんたがどこへ行ってるかまでは知らねぇ。けどオレは」ジュリアスからの視線に堪えられなくなったのか、ゼフェルは顔を横に−−ロザリアの方へ背けた。「三ヶ月前のこと、オレは……!」
 三ヶ月前?
 ……わたくしが十二歳の……ジュリアスと初めて会った八月?
 ロザリアの意識を持ったまなざしに気付いてゼフェルは「ちょっと待ってろ」と言うと、ジュリアスの方へ駆け寄った。
 そしてロザリアはぎょっとする。
 ゼフェルがジュリアスに向かい、頭を下げたのだ。