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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆9

 足下を流れていくフェリシアの様子を見つつロザリアは、アンジェリークの言葉を思い返していた。腹這いになって大陸を眺めるなどという考えは毛頭なかった。だがアンジェリークはそうすることで民に近づく気がし、畑を共に耕したとも言う。
 ロザリア自身は神官のみと会って望みの力を聞き、それと王立研究院から弾き出されたデータを元に与える力を組み立て、守護聖たちにそれを依頼する。決して民の望みを鵜呑みにはしない。彼らが勘違いしていることだって多々あるのだ。
 だからアンジェリークがやっていることは、民に対して、おもねるような行為なのだと決めつけてみる。民に近づくだけではだめだ、ある程度は突き放して見る必要があると。それどころか、民自身が気付かなかった望みに気付いてやることが必要だと。何故ならわたくしは彼らにとって『天使様』なのだから。常に高みから手を差し伸べてやらねばならないと。
 けれどその一方で、言いようもないザラザラとした感覚がロザリアを襲う。研究院でエリューシオンの現況を知ってその感覚はいや増している。確かにロザリアのフェリシアの方が抜きん出てはいるものの、現在は頭打ちの状態となっている。それに対しエリューシオンは、少しずつではあるが着実に育成が進んでいる。アンジェリークはおおよそ研究院のデータなど意に介していない様子なのに……。
 思い立ってロザリアは、遊星盤をエリューシオンの方へ飛ばしてみる。神殿ではエリューシオンの神官が、てっきりアンジェリークが来たのかと思って飛び出してきたが、それがロザリアだと知ると−−
 はっとした。
 以前はあからさまに落胆の表情を見せていた。
 だが今は。
 「フェリシアの天使様ー!」
 そう声を掛けられ、手を振られた。思わずロザリアは神官の許へ降りていた。



 「正直なところ……そなたはどう思う?」
 実に単刀直入にジュリアスが問いかける。オスカーからは常に、打てば響くように返答があることをジュリアスは承知している。
 だが、このときは違った。オスカーは何か考え込んでいるようだった。
 「……良い。述べよ」
 「俺はアンジェリークが気になります。民に勢いを感じるのです。思うに、力加減の引きが上手いと」
 ジュリアスは執務机に両肘を置き、手を組むとそこに軽く顎を乗せた。ジュリアスが相手の話をもっと深く聞こうとするときの癖だ。
 「俺たちの力を与え過ぎない。いや……むしろ足りない。最初は見きわめができていないのかと思いましたが」
 「……私もそなたと同意見だ、オスカー」
 机の端にある書類を取るとジュリアスはそれをオスカーに指し示した。
 「民が望む刹那で力を止めている。そして民が望んで初めて追加している。だから民自身が望む力を表明しやすい」
 オスカーが頷く。
 「つまり、アンジェリークは民の望みを聞いているふりをして、実は民の望みやすいように力を加減してやっているということになる……もっとも」
 ふっとジュリアスは微笑んだ。
 「アンジェリークがこの微妙な匙加減を意識してやっているとは思えなかったが……な」
 「おっしゃるとおりです、ジュリアス様。だからどうにも不思議だったのです。たんなる偶然かと。けれど」
 先程の話を聞いた今となっては納得できる。
 オスカーは口には出さなかった。だが、ジュリアスはオスカーが同じことを思っているとわかっていた。
 「それに対しロザリアは」言いながら少し顔が強ばったことを、ジュリアス自身が意識する。「先回りして与え過ぎる……常に準備万端でいることは大事だが」
 悪く言いたい訳ではない。むしろ言いたくないけれど。
 「……他の守護聖たちはどうだ? 気づいていると思うか?」
 「さあて」オスカーは、苦笑するとジュリアスを見た。「坊やたちはもっぱら同年代の仲間が増えたのが楽しいようですし」
 「……ロザリアに対しても、か?」
 少し驚いたようにジュリアスはオスカーに尋ねた。おおよそロザリアがオスカーの言う『坊や』たちこと、風の守護聖ランディや鋼の守護聖ゼフェル、そして緑の守護聖マルセルと上手くつきあっているとは思えない。それはひとえにロザリアの気位の高さが災いしている……と、ジュリアス自身驚くほど実感をもって思った。
 ロザリア。
 よく知れば、そなたがそれほど付き合い辛い者ではないと−−
 「意外なことに、ゼフェルとは話が合うようでしたよ。ゼフェルがロザリアと話すようになったので、マルセルとランディも徐々に打ち解けつつあるようですが」
 少し目を見開いたもののジュリアスは、ああ、と頷いた。エア・カーが縁を取り持ったか、と。



 あの十六歳の八月。ロザリアが行ってしまった後、カタルヘナ家の運転手をしている者が、ロザリアが乗ってきたエア・カーを引き上げて帰る間際、ホテルの駐車場担当と話していたのを小耳に挟んだ。
 「これをカタルヘナのお嬢様が運転されたのを見たときは驚きましたよ」
 「ああ、そうなんだ。主よりロザリア様の方がよほど運転が上手くて、私も時々はっとさせられることがあるよ」
 「それにしても……この車種の運転は難しいでしょう?」
 「そうだとも、だがロザリア様はこれがお気に入りだ。発進時の胸のすくような加速や小気味のいい操作性が他のものとは比べものにならないぐらい良いからな……もっとも、自由度の高い分、じゃじゃ馬と言えるが」
 じゃじゃ馬、か。
 エア・カーのこと自体はもっぱら後部座席に乗るばかりで、運転をしたことのないジュリアスにはわからなかったが、ロザリアが乗っていたエア・カーのことは気になった。扱いにくいものを御すことができるということや、ゼフェルと話が合うとなると、そちらの知識や技量は相当なものだというわけだ。こと機械や道具類に対するゼフェルの知識や愛情は、その司る力の如く満ちあふれているから。
 オスカーではないが、本当に『意外』だ。