あなたと会える、八月に。
ロザリアを抱き上げるとジュリアスは、ざばざばと川の水を蹴散らしつつ岸辺へと上がった。リュミエールが、少年と父親の家に行きましょうと先導に立つ。
「……だから『子ども』だとでも?」
口をとがらせるロザリアに、ジュリアスは「淑女たるもの……」と言いかけてますます不機嫌そうになるロザリアを見て、それ以上言うのはやめておいた。
けれど。
笑みを控えジュリアスは、まだ涙で濡れたロザリアの目尻に唇を軽く押し当てた。
「謝る」驚いた表情で自分を見るロザリアに、ジュリアスは小さな声で告げる。「もう二度と、そなたの目にこのような様を見せはしない」
「……見えない所でも嫌ですからね」
口をとがらせたままロザリアはそう言うと、ぷいと横を向いた。先程とまったく違うことを言っている自分が恥ずかしいらしい。
「……ああ」
頷くとジュリアスは、再び微笑んだ。そして心の中で強く誓う。
同じ涙にしても……このような泣かせ方は二度とさせない、と。
作品名:あなたと会える、八月に。 作家名:飛空都市の八月