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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆20

 足音が聞こえた。
 それは居間の近くまで来たものの、そこで止まってしまったので、ジュリアスとリュミエールは顔を見合わせた。
 「どうされました、お嬢さん」
 外で女の声がする。
 リュミエールが声をかけるより先にジュリアスが、椅子から立ち上がって居間の扉を開いていた。
 「どうし……」
 ジュリアスの言葉が途切れた。リュミエールも気になってそちらを見た。
 完全に髪が解かれた状態のロザリアを見ることは、今までリュミエールにはなかったが、いかにも湯上がりに着るのに良さげな、素朴なデザインの木綿のワンピース姿は珍しい姿だった。たぶん、ここの女のものを借りたのだろう。
 「ごめんなさいね、そんな着古しぐらいしかなくて……」
 心底すまなさそうに言う女にロザリアはあわてて叫んだ。
 「いえ、いえ、そのようなことはありませんわ、ありがとうございます、あの……あの」ぺこり、とロザリアは『淑女』らしからぬやり方で頭を下げつつ続けた。「着慣れないので……少し気恥ずかしいだけで……」
 なるほど、おおよそロザリアが着ないような−−むしろアンジェリークの方が好んで着そうなものではあった。だが長い髪をおろし、湯上がりの少し蒸気した頬には、十七歳の少女なりの艶があり、綺麗だとリュミエールは思った。
 ジュリアスがすぐそばにいることに気づいたらしいロザリアは、ふっとジュリアスから視線を逸らしつつ言った。
 「お先に。早く……お入りになって」
 女の手前、多少丁寧な口調にはなっている。
 「……ああ」
 その声は少し掠れてはいたものの、気を取り直したように頷くとジュリアスは、案内をする女の後に従って居間から出ていった。
 「……よく温まりましたか?」
 「え、ええ……それはもう」はっとしたようにロザリアは振り返ってリュミエールを見た。「あがろうとしたところで、もっと温まるようにジュリアス様がおっしゃっていたからと、ここの奥様が言いにいらしたので、すっかり湯あたりしてしまいましたわ」
 ぷっ、とリュミエールが吹いた。
 「ま、何が可笑しいんですの?」
 少し眉をつり上げたものの、それほど怒った様子もなくロザリアが尋ねる。
 「すみません……あなたとジュリアス様の、それぞれおっしゃっていることが面白くてつい」
 笑うのを慎もうとするものの上手くいかないリュミエールは、笑ったまま椅子を勧めた。
 「さあ、こちらへ」
 「はい」
 そう言って座ったロザリアは、すっと顎をひくとリュミエールを見据えた。さすがにリュミエールも笑むのをやめた。
 「リュミエール様」
 「……はい?」
 「申し訳ございません」
 「……えっ?」
 再び、唐突な詫びの言葉。
 そして。
 「今だけどうか、お許しください……ここを出る頃には元の女王候補に戻りますから」



 リュミエールは目を伏せる。
 もしもできるのであれば……この二人を、海へ行かせてあげたいと心底思った。
 その、八月の海へと。