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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆21

 「……リュミエール様」
 少し声を落としてロザリアが声をかけた。
 「はい?」
 「今だけ……お許しくださいね」リュミエールが先ほどの詫びで目を伏せたことを気にしたのだろう。再度言うとロザリアは早口で続けた。「あの……ジュリアスって、どのような格好で水泳の練習をしていたのでしょう?」
 「……は?」
 「だって」
 リュミエールとの間にある木のテーブル越し、身を乗り出すようにしてロザリアは、話題の主であるジュリアスは入浴中なのだから聞こえるはずもないのに、ますます小声になって言う。気分的に憚られるのだろうか。
 「信じられます? ジュリアスは海にいる間、ずっと長袖のシャツやジャケットをきっちり着ていたんですよ? しかもその格好でわたくしの父とチェスをやっていましたわ……砂浜で。いくらテントの中は日陰で多少は涼しいからとは言え」
 「……え?」
 「母が海洋療法のサロンへ誘ったときも、その……全裸になって泥パックを施されると聞いたとたんやめたぐらいですのよ」
 さすがに『全裸』のところで詰まり気味にはなったものの、何とか言うことができたロザリアは、浮かせた腰を椅子に戻した。
 「日焼けを恐れる女性はわたくしも含め多いことは否めませんけど、ジュリアスのように肌をさらしたがらないのは病的だと家族で申して……」
 そこまで言ったところでロザリアは目を丸くした。丸くしていることはリュミエールにもよくわかっていたが、もう我慢できなかった。
 ジュリアス、ロザリアとも……おおよそふだんの様子からは想像できない。各々二人から『八月』の海での話を聞くのは、なんと微笑ましく、楽しいことだろう。
 「リュミエール様? 何がそんなに可笑しいんですの?」
 潤んだ目尻に指をやりながらリュミエールは、少しむせつつ答えた。
 「も……もちろん、普通に泳ぐための水着ですよ」
 「……そうですわね」笑われているせいもあって、さも面白くないと言いたげな表情になってロザリアが言う。「ジュリアスもまさか水の中でまでスーツ姿で泳いだりしませんわね」
 「さすがにそれはないですね」リュミエールはそう言うとどうにか笑うのを控えて、微笑む程度に抑えた。「でも、あなたのお父様は、そのようにきっちり服を着てチェスをなさっていても、下に水着を付けていらしたのでしょう?」
 ジュリアスからの話を思い出して、さらっと言ったリュミエールだったが、今度はロザリアの方が、「えっ?」と聞き返した。
 「父が?」
 その反応にリュミエールの方が驚いてしまった。ロザリアが知らないとは思わなかったのだ。だが内容としては決して悪いことではないと思い直し、続けることにした。
 「ええ……ジュリアス様からお聞きしたのですが……いつでも『子ども』や妻を助けに行けるように、と」
 ロザリアは一瞬、言葉を失ってしまったようだった。
 「……ロザリア?」
 「ジュリアスったら……」少し目を伏せながらロザリアは言った。「そんな話までリュミエール様にしていたんですね……恥ずかしいですわ」
 決して本心からロザリアが言っている訳でないことは、もちろんリュミエールにもわかっていた。素直に自分の気持ちを言い表せないだけなのだろう。
 リュミエールは静かに首を横に振った。
 「続きがあるのですよ、ロザリア」



 「あの『子ども』の母親はもういない。そして父親は妻の思い出に満ちあふれた海へはもう行きたくないと言う。そうなると、あの『子ども』が万が一おぼれても……誰も助けられない」
 リュミエールから『子ども』とその家族の話を聞くのが楽しいと言われ、とりあえず続ける気になったジュリアスは、少し表情を引き締めて言った。
 「だから……次から私がその『子ども』を助けられるようになるべきだと思ったのだ」



 ロザリアは目を見開き、リュミエールを凝視した。
 「……そんなこと……ひとことも言わなかったわ」そうぽつりと言うとロザリアは続けた。「確かにわたくしが……ちょっと海から出られなかったことがあって、ジュリアスが迎えに来てくれたことがありました。その後、少しは泳げるようになった方が良いかもしれないと言ったので、わたくし……バタ足ぐらいはできるようになってね、とは申しましたが……」
 「ええ、バタ足は大丈夫ですよ」にっこりと笑ってリュミエールは答えた。「ジュリアス様は実に熱心に練習されていました。熱心過ぎて少々無理をされたこともありましたが」
 「……無理?」
 「ええ、まあ」表情を苦笑に変え、リュミエールは言う。「あなたの先ほどの怒った様子……」
 とたんにロザリアは顔を紅潮させた。
 「あ、あの……お恥ずかしいところをお見せしてしまって……」
 「いえ」再度ゆるりと首を振るとリュミエールはロザリアを見た。「私はあの時のあなたの気持ちがとてもよくわかるのです。でもどうかジュリアス様を許してあげてください……と私が言うのもおかしな話ですが」
 「リュミエール様……?」
 ふっ、とリュミエールは微笑んだ。
 「そうですね……あなたにはちゃんとお話しておきましょうね」
 ロザリアの表情に、微かな緊張の色が浮かんだ。