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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆23

 水中から水面に上昇することはそれほど困難ではなかったが、水面からプールサイドにジュリアスを引き上げるのに、ジュリアス自身、そしてリュミエールにしても手間取った。というのも、ずぶ濡れのトーガは相当重かったからだ。
 それでもどうにか引き上げるとリュミエールは、プールサイド際に躰を投げ出したジュリアスに覆い被さるようにして様子をうかがった。
 「ジュリアス様!」
 「……リュ……」
 水を呑んだのか、ジュリアスはごふ、と小さくむせた。しかしむせつつも、先ほどまで掴んでいた足に手をやろうとしていた。よほど痛むのだろう。
 「ジュリアス様、私が」
 そう言うとリュミエールは、ジュリアスのつった足先を手に抱え込むようにして彼の咳きこみがおさまるのを待った後、ゆっくりと足裏を立てた。
 「うっ……」
 微かに呻き声をあげたものの、ジュリアスは唇をかみしめている。
 「こむら返りは痛いのですよ。我慢なさらず、痛いときは痛いとおっしゃってください」
 そう言うとリュミエールはしばらく施療していたが、やがて、結局痛みに耐えて声を漏らさなかったジュリアスの肩の揺れがおさまってきたのを見てとると、そっと手をジュリアスの足から離した。
 「礼を言う……リュミエール」まだ口の中にプールの水が残っているのか、渋面を作ってジュリアスは言った。そして何故かリュミエールから少し顔をそむけつつ続ける。「私のことはもう良いから……何か……羽織れ」
 「わかりました。ですがその前にジュリアス様の具合をもう少し」
 「私は……大丈夫だ。」そう言ってジュリアスは、リュミエールから逸らしていた視線を、自分の髪と同じようにぼたぼたと水の垂れ落ちているリュミエールの青い髪に移した。「それより……そなたが風邪をひく」
 「……は?」
 一瞬、信じられない言葉を聞いたような気がして、リュミエールは腕の下、横たわっているジュリアスの顔を凝視した。だがジュリアスは、依然としてリュミエールの顔を見ないまま続けた。
 「足がつって体勢をくずした。無様なところを見せてしまったが、もう問題はない。だから、そなたこそ早く……」
 問題はない、という言葉を聞いたとたん、リュミエールの中で、ぷつり、と何かが切れたような気がした。ジュリアスの顔の両脇に叩きつけるように手を置くとリュミエールは、真上からジュリアスの顔を見据え、叫んだ。



 私がまだのんびり部屋であなたをお待ちしていたら、どうなさるのですか?
 忘れ物を取りに行くとおっしゃった割に戻らないあなたの様子を見に行かなかったら、どうなさるおつもりだったのですか?
 絹のトーガに水が染み渡り、いくら浮き身を覚えても、水分を含んだ布の重みで躰は沈む。
 足は水深が深くて立たない。
 それ以前に足がつった状態では泳ぐこともままならない。
 ましてやあなたは初心者で。
 ああもう、何をおっしゃっているんですか!
 私の心配などなさってる場合ではない、あなたのことが心配なのです!
 おわかりですか、ジュリアス様。
 あなたは、死にかけたのですよ!