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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆29

 星の間は、しん、と静まりかえっている。
 もちろん守護聖たちは勢揃いし、ぐるりと円を描くようにして立っている。その中にアンジェリークもいて、その両脇を光の守護聖たるジュリアスと、闇の守護聖クラヴィスが控えている。
 けれど言葉が発せられることはない。その代わり、次々と守護聖たちの指先が発光する。アンジェリークからの指示は、音も動きも伴わないけれど、ただただ脳髄を貫くような感覚で与えられ、各々の星の名称すらも言われずとも、守護聖たちが力を発したとたんそれは、適切にその力を望む星々へと送られていく。
 他のことを考えている余裕など到底ない。
 脳へ、躰へ、しみ込むように指示が出され、それに指先が反応する。ひたすらその繰り返しで、たとえ疲れて躰が悲鳴をあげようと一切の間断を許さない。だからどのくらいの時が流れたのか、守護聖たちにはすでにわからなくなっていた。
 ところが。
 ぴたり、とその指示が止まった。
 一斉に守護聖たちがアンジェリークを見る。
 隣にいたジュリアスが声をかけようとしたけれど、長い時間黙々と指示に従って力を発していたせいでそれは声にならず、息が漏れたように微かに音となって口から出ただけだった。
 仕方なくジュリアスがアンジェリークを見やったとき、不意に彼女の唇が動いた。
 「……ロザ……リア……」



 すっ、と胸の前で組んだ両手を解くとロザリアは、足下を流れていく風景を見下ろした。
 エリューシオンとフェリシアはずいぶん成長して、多くの人々が住み、暮らしている。このように人々がごくごく当たり前に生活を営んでいるのを見ると、確かに育成はしていたけれど、本当に自分が育成したのかどうか……不思議に思ってしまう。
 ……いいえ。
 ロザリアは首を横に振る。
 わたくしが育成した、とは言い切れない。ただ、民の手伝いをしただけのこと。
 そう思ってみて初めてロザリアは、女王というものについて考えることができた。
 ……そういうことなのね。
 くすくすと笑ってロザリアは、アンジェリークのように腹這いにはならないまでも、遊星盤に屈み込み、まるでそこに子猫がいるかのように掌を足下の風景へ向けて撫でてみた。
 わたくしは今ごろになって気づいた、というわけね。
 ジュリアスがわたくしを女王に選ばなかったのは、自明の理だったのね。
 頭では納得しつつある。
 けれど感情がまだ、それを許さない。
 手を持ち上げるとロザリアは、思い切りがついたようにそれで自分の顔を包み込んだ。
 また拒まれたこと、そのうえその場に自分が存在していることすら忘れ去られたのではないかと思うとロザリアは、酷く落ち込み、堪えきれず嗚咽した。
 そうして……今ごろわたくしは、ここでこんな風に惨めに泣いているのね。
 そこには誰もいないのに、声を押し殺し、漏れ聞こえぬようにするかのようにロザリアは口を押さえ、眼をぎゅっと閉じる。
 あの場で泣き叫んだら、誰かは−−ジュリアスは同情してくれたかしら。
 そう、頭ではすでに納得している。
 そのようなことをしても無駄だし、第一、そのようなことを自分はできるはずがない。人前で泣くことができるのであれば、もっと自分は楽に生きられたはずだ。けれどそれをしないことがロザリアの、ロザリアたる所以でもあった。 
 もう、どうしようもない。
 すでに終わってしまったこと。
 ならばせめて。
 ロザリアは、きゅっと泣き濡れた瞼を指先で拭い、立ち上がる。
 せめて、わたくしの……女王候補としての最後の願いだけは叶えてほしい。
 フェリシアには光の力。エリューシオンには水の力。
 各々の大陸の神官たちの望みと、自分が察知したこととが一致した、この願いだけは。
 そのとき。
 「天使様ーっ!」
 ロザリアの耳に、数人の子どもたちの声が響いた。見れば、ぶんぶんと力強く手を振って、こちらへ向かって駆け寄りつつ叫んでいる。
 いつの間にか低く、遊星盤を飛ばしていたらしい。懸命に叫ぶ子どもたちにロザリアは思わず笑みを浮かべ、遊星盤を着陸させた。