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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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 はっとしてジュリアスはアンジェリークの言葉の続きを待ったが、瞬間、指示が守護聖たちへと流れ込んだ。
 (光の力をフェリシアへ)
 (水の力をエリューシオンへ)
 弾かれたようにジュリアスと、そしてリュミエールとが視線を合わせる。
 聖地を擁する主星を含む、今ここにある宇宙と異なる場所−−あの飛空都市の下に広がる二つの大地へ。
 思うより先に指が輝き、力がそこへ向けて発せられた。
 「嬉しい……」
 極度に疲労していることは、守護聖同様、アンジェリークにも変わりはない。弱々しい声ではあったけれど、顔を綻ばせてアンジェリークは呟くように言った。
 「とても……エリューシオンとフェリシアのことまでは気を回せなかったから……」
 すっ、とジュリアスとクラヴィスの腕が動き、両方からアンジェリークの肩に触れ、穏やかに力が発せられる。疲れた躰と心を奮い立たせる気力と、一息つかせる安らぎの力が、新しい女王たる存在の少女へ同時に流れ込む。
 「……ありがとう」
 ジュリアスとクラヴィス、そして他の守護聖たちを見回し、一瞬、目を伏せてアンジェリークは言った。
 ロザリアに向けても言っているのだろう、とジュリアスは思った。



 「天使様、お腹、空かない?」
 子どもの一人が遊星盤から降り立ったロザリアに、飛びつくようにして尋ねる。
 「だって、天使様、今回はとても長くフェリシアにいらっしゃるもん」他の子どもが付け加える。「神官様が心配していたよ、天使様は大丈夫かって」
 「エリューシオンの天使様の代わりもしてあげてるんでしょう?」別の子どもが口をとがらせた。「どうしてエリューシオンまで、フェリシアの天使様が面倒を見てあげなきゃならないの? 僕たちの天使様に何かあったら大変……」
 言いかけたその子どもの頭を、ロザリアはゆるりと撫でた。一斉に他の子どもたちが羨ましげな声を上げる。
 「ありがとう」微笑んでロザリアは言う。「わたくしのことを心配してくれて。でも……エリューシオンの天使様も今、とても大事なお仕事をするため、がんばっているのよ」
 わたくしは……その手伝いすら、満足にできていないようなものだけれど。
 「……天使様はまだ、フェリシアにいてくれるの?」
 子どもたちの内で、一番小さな女の子が囁くように言う。こくりと頷くとロザリアは屈んで彼女に目線を合わせた。
 「まだいるわよ。フェリシアと……エリューシオンに。そうね……」
 ふっと空を見上げる。
 日が傾き、薄い赤と紫の色が空の片端を染め上げている。
 「この空に、やがてたくさんの星々がやってくるのよ……そのときまでね」
 「星が?」
 「星がやってくるの?」
 子どもたちが叫ぶ。
 「すごい、早く見てみたい!」
 口々に言い、はしゃぐ子どもたちの中で、ロザリアの目の前にいる少女だけが、悲しそうにロザリアを見つめた。
 「じゃあ……星がたくさんやってきたら……天使様は帰っちゃうの?」
 とたんにその場が静まる。
 「ええ」こくりとロザリアは頷く。「帰るわ」
 聖地ではなく−−主星へ。
 自分が元いた場所へ。
 もっとも、子どもたちがその『帰る』という言葉をどういう意味に取ったかまでは、ロザリアも深追いはしなかった。
 「……お花」
 少女が、手に持っていたらしい花をロザリアに差し出した。
 「わたくしに……?」
 ふとロザリアは、エリューシオンの神官が、エリューシオンの天使たるアンジェリークに持ち帰って欲しいと言った彼らの農作物のことを思い出した。民から寄せられる、あふれるような愛情と尊敬の念をもろに受けたときのことを。ただしそれはロザリアに対してではなく、あくまでもアンジェリークに向けられたものだったが。
 今までロザリアには、少なくとも敬意は表されていたと思う。けれど、このように素直な愛情表現を向けられたことはなかった。
 たかが花ひとつ。
 いたってそれはささやかな好意に過ぎない−−それなのに。
 「……ありがとう」
 嬉しくて涙が出そうになった。そういう涙は流して見せても良いような気がしたが、やはりロザリアは相変わらず人前−−子どもたちの前でも泣けないでいた。
 けれど、それはそれで良いと思った。
 その様子を見た他の子どもたちも、一斉に周囲に散って、手に手に野の花を摘んでやってきた。たちまち花はロザリアの手では抱えきれなくなり、遊星盤へと持ち込まれて見る見るうちにそこは花でいっぱいになった。
 ふわり、と浮き上がった遊星盤に向かい、子どもたちが手を振る。それに小さく手を振って応えながらロザリアは、ふと受けた感覚にはっとして顔を上げた。



 光の力……!



 そして、微かにロザリアの頭へ聞き覚えのある声が響く。
 『……ありがとう』と。