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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆32

 こくりと茶をすすり、空になったカップを脇に置くとロザリアは、同じくコラが茶と共に気を利かせて持ってきてくれたクッションを背に当て、それにもたれた。
 遊星盤の中は、さまざまな花であふれかえっている。それというのも、フェリシアの花でいっぱいになった遊星盤を見たとたん、エリューシオンの者たちが自分たちの花もぜひと一斉に持ち込んできたからだ。そうして殺風景な遊星盤の中は両大陸の花とその香りに満ちあふれ、今ではちょっとした優雅な空間へと様変わりし、ただ一人で両大陸を巡り続けるロザリアの心を大いに慰めた。
 慰めと言えば。
 ジュリアスがわたくしの様子を尋ねてきたとき……とても嬉しかった。
 ロザリアの顔が微かに綻ぶ。
 わかっているわ。
 ジュリアスはただたんに、首座の守護聖として、女王候補自身が育成している大陸を、きちんと見守っているかどうか確認しただけのこと。
 でも……それでも良いの。
 ロザリアは花の一つを手に取り、その香りを愛でながら小さく肩をすくめ笑う。
 やはり……わたくしは、アンジェリークのように無心にはなれない。
 ただ、以前のように誉めてほしいだけというわけではない。
 大陸を育成した者として、その責任を果たしたい。
 そう、ジュリアスに対し、恥じるようなことだけはしたくない−−そしてそれはもちろん、わたくし自身に対しても。
 だからわたくしは、わたくしの役目を全うしてみせる。
 ……これで最後の。



 それにしても。
 いったいロザリアは、どれくらいこの二つの大陸と飛空都市を行き来したことだろう。
 あの、最初に力を与えてくれるよう祈った後、さまざまな力を少しずつ願い、きちんきちんと返事をよこすようにその力が与えられていく。直接、アンジェリークや守護聖たちと顔を合わせたり、言葉を交わしたりしなくとも、通い合うものを感じることができる。
 コラの淹れてくれる茶を受け取るために飛空都市へ戻るたび、あの研究員の青年もすっかりロザリアの専属であるかのように大陸のデータを用意して待っている。遊星盤を起動してもらえさえすればそれで良かったのだが、ずっとそのように待機してくれているので、何故かと尋ねたことがある。
 すると彼は胸を張って答えた。
 「あなたのやっていることはもっともだと思うし、ジュリアス様からも直々に頼まれましたから」
 「え?」
 「あなたを、しっかり援護するよう頼む、と」
 一瞬、呆気に取られたかのようにロザリアは彼を見た−−彼の言葉を反芻した、と言うべきか。
 「だから僕は大丈夫、堂々とここに残っています……あの」反応がないので彼は、ロザリアの顔を覗き込むようにして続ける。「僕、少しは……お役に立っていますか?」
 その言葉にはっとしてロザリアは、彼を見つめた。まともにロザリアの強い視線を受けて彼は、ぎょっとしたようだった。
 「……ありがとうございます。ええ……とても助かっていてよ。感謝しています」
 もう少し、気の利いた言葉を言いたかったけれど、ロザリアはそう告げるのが精一杯だった。彼の方はそれほど気にした様子もなく、ほっとして笑顔を見せたけれど。
 遊星盤に乗り込むとロザリアは、クッションを抱えながら思い出す。
 あれは十五歳の八月。
 わたくしに、『役に立つことができたのだな』と言ったのはジュリアスだった。
 極上の笑顔と共に告げられたその言葉がはっきりと蘇る。
 あのときは、ずいぶん変わった言い方をすると思っていたけれど、たった今、人づてではあったものの……人の役に立てるということは、なんて嬉しいものなのだろうと理解した。
 もっとも、女王候補が大陸を育成するにあたり、王立研究院の協力は不可欠だからと指示することは、どれほど自分が守護聖の一人として多忙なときであったとしても、首座として当然の務めだ−−そう言い切ってしまうこともできる。実際、ジュリアスからすればそういうつもりだったのかもしれないし……そうだと思う。
 けれど。
 研究員の彼に、きちんと依頼してくれてありがとう。
 心の中でロザリアは、ジュリアスに言葉をかける。そしてそのまま−−聞く相手のいないまま−−問いかける。
 ……わたくしは、あなたの役に立てていて?



 一方、民からは相変わらずさまざまな花が供される。
 最初にロザリアへ花を贈ってくれた少女は、初めて会ったころよりずいぶん成長したけれど、はにかんだ表情で花をくれる様子に、幼いころの面影が見え隠れする。
 ふとロザリアは思い立ち、彼女にフェリシアで最も好きな花は何かと尋ねた。すると彼女は、天使様へ最初にお渡しした花ですと言った。
 ロザリアは、エリューシオンでも同じく少女の一人に声をかけ、同じ質問をしてその花を受け取ると、コラに指示して押し花のカードを作るための材料等を用意させ、王立研究院でデータを眺める合間にそれを作った。
 フェリシアとエリューシオンの、各々一つずつ二つの花が嵌め込まれた、押し花のカードを四枚。
 一枚はフェリシアの少女に、一枚はエリューシオンの少女に。
 もう一枚は自分への記念−−この花を咲かせた大陸を育成したという記念に。
 そしてもう一枚は−−