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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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 飛空都市の王立研究院は、しん、と静まりかえっていて、聖地の宮殿での喧噪が嘘のようだった。もっともそれは人が少ないからであり、遊星盤の発着場へ行くまでにジュリアスとゼフェルは、件の研究員が建物のあちらこちらへあたふたと移動しているのを見つけた。
 彼は二人を見つけるなり、直立不動になって立ち止まり、深々と礼をした。
 「ご苦労だった……状況はわかっているな?」
 ジュリアスがそう言うと、彼は狼狽えつつも頷き、今、この飛空都市の王立研究院としての最後のデータ収集をしているところですと付け加えた。
 「でも、なかなかわからないことが多くて」
 「あー? どれだ?」
 ゼフェルもさすがに疲労が濃く、素早く動くことはできなかったけれど、彼の元へ行くと、さっと表れた画面のひとつを覗き込んだ。
 「ああ、こいつは……」
 「ロザリアはどうした」
 肝心なことを言わない彼にジュリアスは、少々不機嫌な声になってしまったものの構わず尋ねた。
 「あっ!」ゼフェルの話を聞きかけていた彼は、慌ててジュリアスを見た。「あ、あの、いったん戻られたんですが」
 「……また大陸へ行ったのか?」
 「はい。でも、すぐ帰るとのことでしたから、そろそろ」
 二人をそのままにしてジュリアスは、遊星盤の発着場へ向かった。扉を開けたとたん、奥の方で遊星盤の着いた音が聞こえた。
 「ロザリア……!」
 はっとしてジュリアスは、どうにか先程よりは動けるようになった足を動かし、奥へと向かった。
 そして。
 声をかけようと思った。
 思ったけれど、かけられなかった。
 静かに動きを止めた遊星盤の、天井の部分が開かれてロザリアの姿が見える。床の上に座り込んだロザリアは、どうやら背中にあてているらしい大きなクッションに身を沈ませたまま、視線を含む心をどこか遠く−−遊星盤や発着場の壁の向こう−−大陸へ向けたままのようだった。
 少しだけ、ジュリアスはロザリアが動き始めるのを待ってみたが、自分にもそうそう時間が残されていないこともあり、仕方なく歩を進めつつ「ロザリア」と呼んだ。
 ゆっくりと、顔が、視線が、自分の名を呼ぶ者の方へと動き、そして−−笑った。



 ジュリアスには毛頭、そのようなつもりはなかった。
 けれどまるで、見えない手枷足枷<てかせ あしかせ>がすっかり外されてしまったようだった。そしてその自由を謳歌するかの如くジュリアスは素早い動きで遊星盤へ入り込み、膝をついてロザリアの背に腕を回すとその躰を抱き締めていた。