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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆34

 ……ジュリアス?
 いきなり抱かれてロザリアは、心の内でその名を呼んだものの、驚きのあまり声に出して言うことができなかった。
 ロザリアは、ただたんに、大陸から戻って最初に会えたのがジュリアスだったことがとても嬉しかっただけだ。何もかも終わった。終わって帰ってきたらジュリアスが来てくれていた。ただそれだけだった。
 なのにまさか、このように強く抱き締められるとは思わなかった。
 嬉しいと思った。
 ようやく『役に立てた』のだと実感できた。だから戸惑ったものの素直に嬉しいと思うことにした。
 何も言わずロザリアはじっとして、ジュリアスに抱かれるままでいた。
 「……良い香りがする」
 しばらくして、ぽつりとジュリアスが言った。ジュリアスの顔はロザリアの頭の上だ。だからそう言っている表情は、ロザリアからは見ることができない。
 「さっきまで……ここは花でいっぱいだったのよ」
 ジュリアスの胸に顔を押し付けられた格好のロザリアは、あまりはっきりと話すことができない。どうにか言葉を発すると、その事情を察したようにジュリアスが少し腕の力を緩めた。
 「……花?」
 「ええ」胸の上でこくりと頷いてロザリアは言う。「二つの大陸の民がわたくしにくれた花。でも」
 抱かれている状況に少し慣れ、ぎゅっと躰を強ばらせていた力を抜くとロザリアは、自分の意志でジュリアスの胸に頭を預けた。
 「さっき全部、二つの大陸をつなぐ中の島へ、空から蒔いてきてしまったの」ふふ、と笑ってロザリアは続ける。「ふわふわと落ちていって、とても綺麗だった……」
 そこまで言ってロザリアは、はたと気づいたように少し頭を動かした。
 「パスハさんやルヴァ様に知られたら、生態系を崩したと叱られてしまうかも」
 「二つの大陸の花ならば、そなたがそうしなかったとしても、やがては中の島で合わさっただろう」
 優しい口調だった。
 「……怒らない?」
 「怒ってなどいない」
 「では、わたくしがその花を少し、こちらへ持ち込んでしまっていても?」
 「なに?」
 さすがに少し、声音が変わった。だが、ロザリアは構わず手にしていたものをひらひらと動かしてみせた。
 「それは……?」
 「押し花のカード。さっき、宇宙の移行を確認した後、ここへ戻って取りに来ていたの」
 黙っていることで話の先を促すジュリアスの意を汲み、ロザリアは続ける。
 「フェリシアの子とエリューシオンの子に、二つの花を押し花にしてあげたのよ。そして……」
 一気にロザリアの唇が揺れる。
 だめよ……今、崩れてはだめ。
 堪<こら>えなさい、決して悟られぬように。
 「この二枚は、わたくしと……アンジェリークに。育成した記念にどうかと思って」
 顔が見えないのは幸いだった。どうにか普通に言えた、とロザリアは思う。
 「これは……いけないかしら?」
 ごまかすためとはいえ、少々、調子に乗った甘えん坊のように言ってしまったと思いつつもロザリアは、頭を動かし、ジュリアスの顔を仰ぐようにして返事を待った。
 「……押し花にしたのであれば……構わないだろう。それに同じ宇宙の星となったのだし」
 「嬉しい!」
 そう言うとロザリアは、カードを床に置くと少し力を込めて躰をよじった。かなり緩みつつあったジュリアスの腕からいったん躰を離すと、ロザリアは改めてジュリアスの顔を見た。
 見て驚いた。
 自分もかなり疲れていると思っていた。けれどジュリアスの顔色の悪さはその比ではなかった。それでなくとも彫りの深い顔立ちにより濃い影が際立っている。ジュリアスの、そして守護聖たち−−アンジェリークの役目がいかに過酷なものであったか、ロザリアはささやかではあったが理解した。
 自分ではそれなりにがんばっていたつもりだったが、そう大したことではなかった。一瞬気落ちしたものの、そのような大事を済ませた直後の忙しい中を押してここまで来たジュリアスの、本当の目的をロザリアは考えた。
 確認しに来たのだ、ジュリアスは−−わたくしがこれからどうするか。
 何故……抱き締めてくれたのかは、わからないけれど。
 「わたくし……」
 床を見たまま言うなんて情けない。ロザリアは顔を上げ、ぐい、と顎を引いた。
 「主星へ戻ります」