二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

あなたと会える、八月に。

INDEX|90ページ/159ページ|

次のページ前のページ
 


 少し前まで、ロザリアには聞こえなかったが星が悲鳴を上げていたらしい。その声を聞いたアンジェリークが星を、そして宇宙を救った。
 そして今度は、父の危機を知らぬままコラに心配させたのみならず、その言葉の真意を汲めないでいた自分に、ロザリアはほとほと嫌気がさした。
 思ってみる。
 たぶん、このようなことはわたくしだけに起こることではない。アンジェリークのご家族にだって充分起こり得ることだろうし、守護聖の誰かにしても当然あったに違いない−−たとえばそれはジュリアスについても。
 でも、だからと言って彼らは、はたして家族の許へ戻るだろうか?
 いいえ。
 少なくともジュリアスは戻らない。どれほど心苦しく思っても、彼には『光の守護聖』という、彼自身の存在を示す役目があるもの。
 アンジェリークも……今なら戻らないかもしれない。だって彼女は星々に愛されてしまったから。
 でも……。
 ロザリアは微かに苦笑する。
 あの子のことだから……すごく泣くでしょうね、きっと。



 そして、わたくしは。



 コラから背を向けるとロザリアは、机の上の本や小物類を取り出し、片付けを始めた。
 「ロ……ロザリア様!」
 「手伝ってちょうだい、ばあや。それほど物を持ち込んではいないけれど」手を止めないままロザリアは続ける。「急がないと」
 「私の話を聞いてくださったでしょう?」悲鳴にも似た声でコラは叫ぶ。「ロザリア様……聖地から出ればもうあなた様は、女王候補ではないのですよ!」
 「わかっているわ。だってわたくしは」振り返り、コラを見つめてロザリアは言う。「ロザリア・デ・カタルヘナ、カタルヘナ家の次期……いえ、違う」
 ロザリアは、コラの手を引いて椅子から立たせると、もう片方の手で持っていた本を渡し、告げる。
 「主なのよ。だからいつまでも家を留守にしておく訳にはいかないわ、一刻も早く戻らないと」
 そして再び、くるりとコラに背を向けると、小声で言った。
 「時が経ち過ぎて、手遅れに……ならないうちに」
 「ロザリア様……!」
 どうやらコラにもわかったらしい。
 ここ飛空都市や聖地と、主星との時間は大きな隔たりがある。こうして暢気に未来を論じている間にも、主星の時はどんどん流れていってしまう。
 だから、今どうにか命を取り留めたという主も、いざ二人が戻ったとき、どうなってしまっているか−−考えただけでコラは身震いした。
 「良いこと? ばあや」本棚の高い位置にあるものをほとんど抜いてしまうとロザリアは、次に引き出し類のものを出しつつ言う。「わたくし、いつまでもグジグジとしているのは嫌なの」
 「は、はい」鼻をすすりながらコラが頷く。「そうでしたね」
 「だから、さっさと泣き止んで、早く手を動かしてちょうだい」
 「はい……っ!」
 渡された本を胸に抱いて勢いよく返事するとコラは、同じく本など低い位置にあるものを取り出し始めた。
 ロザリアは、いざ動き始めると自分よりはるかに手際良く荷造りをしていくコラを見ていたが、ふと思い立って、あの押し花のカードを手に取った。



 そして、わたくしは。
 相変わらず泣きもせず、鼻っ柱の強い小娘の勢いだけを頼りに主星へ戻る。



 そういう訳だから、アンジェリーク。
 わたくしはあなたに挨拶もせず、飛空都市<ここ>を去っていく。
 もちろん、早く戻ってお父様を救いたいのが一番だけれど−−
 本音を言えば……あなたに会いたくない。
 女王となったあなたから、直接、言葉をかけられたくない。



 カードを開き、ロザリアは中を見る。
 片側にフェリシアの花。そしてもう片側にはエリューシオンの花。
 −−ただ、それだけ。
 しかも急いでジュリアスに渡してしまったから、あなたへのカードには、さようならの言葉すら残していない。
 だから。
 こんな狭量<きょうりょう>なわたくしを、赦<ゆる>さなくてもいい……けれど、あなたは人が良いから。
 ふっ、と笑ってロザリアはカードを閉じる。
 きっと、赦してくれる……わね?



 カードを、よく使っている辞書の間に挟み込み、ぱたんとそれを閉じてロザリアは、再びコラと共に荷造りを始めた。
 二人して黙々と作業を進めていき、半分ぐらいまとめられたそのときだった。
 「すぐに要るもんだけ持ったら、とっとと来いよ!」
 ぎょっとしてロザリアとコラが戸口の方へ振り返るとそこには、開いたドアにもたれてゼフェルが立っていた。