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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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 それはロザリアをエア・カーから降ろしたときだった。
 ゼフェルはジュリアスの、ロザリアに対する態度が気に喰わなかった。もちろん自分とてそれほど愛想の良い方ではないが、二つの大陸を一人でずっと巡ってきたことに対し−−女王試験に負けたことにしろ−−もっと優しくしてやっても良いのにと思ったのだ。
 もっとも、ゼフェルがそう思うに至ったのは、何もそれらのことだけではないのだが。
 「ジュリアス! てめー、何、呆けたことしてやがんだよ!」
 ところがジュリアスはゼフェルの叫びを無視して言う。
 「ロザリアはもう、寮の中に入ったか?」
 「え?」
 「入ったのであれば……」身を乗り出すようにして運転席にいるゼフェルの肩越しにジュリアスは続ける。「すまないが、少し離れた所で私を降ろしてくれないか。エア・カーの音がロザリアに聞こえぬ程度の場所で」
 「……何のつもりだ……」言ってからゼフェルは鼻で笑った。「夜這いにでも行く気か? それなら」
 「違う」
 「……そうか?」ゼフェルはそれほど悪意を含めてはいないものの、少々茶化すように言う。「オレはてっきり」
 「てっきり……何だ?」
 「お、今、入ってったぜ」ジュリアスの言葉を遮って、操作パネルに映った眼下の映像を確認したゼフェルは笑って言った。「じゃあ、ごゆっく……」
 「そなたには待っていてもらいたいのだ」
 「……はぁ?」呆れ声でゼフェルは言う。「オレが、てめーの夜這いの帰りまで送らなきゃならないってか?」
 「だから違うと言っているであろう」疲れていることも伴い、憮然としてジュリアスが言った。「確認したいことがあるのだ。それが終わったら、すぐ宮殿へ戻る」
 「何を」
 ジュリアスの声音の変化に気づき、さすがに茶化し続けることはやめてゼフェルが問う。ジュリアスは一瞬ゼフェルを見据えたけれど、ゼフェルもまた怯むことなくジュリアスを睨み返した。
 ため息をつくとジュリアスは、躰を座席の背もたれに預け、答えた。
 「何故ロザリアが、わざわざ一週間前に私の誕生日を祝ったか、をだ」
 誕生日、か。
 ゼフェルは先程ロザリアがジュリアスに向かい、言った言葉を思い出す。
 ジュリアスの誕生日−−八月十六日。
 そうか……あれからもう、一年になるのか。
 「……ゼフェル?」
 ジュリアスの呼び掛けに、はっと意識を戻してゼフェルは言う。
 「そりゃあ、たまたま思いついたから……」
 そこまで言って、ゼフェルもジュリアスの言わんとするところに気づいた。一週間ぐらい後のことなら、何もこんなバタバタのときに言う必要なんて、ない。
 何故って……ロザリアにとってこいつの誕生日は、たぶん、すごく大切な日のはずだから。
 「まさかもう主星へ戻るつも……」
 そう言ってしまってからゼフェルは、ジュリアスのすさまじい視線をもろに受け、思わず身を引いた。
 しまった……!
 つい、口が滑っちまった!
 「……そなた……!」
 「と、とにかく!」ゼフェルは慌てて前を見た。「近くへ降りる!」
 そう叫ぶように言うとゼフェルはエア・カーを操作し、降下を始めた。その間、ジュリアスはひとことも口を利かなかった。バックミラー越しにゼフェルは、ロザリアに見つからないようエア・カーの照明を消したせいで最小限の光の中に浮かぶジュリアスの顔をちらりと見る。
 明らかな、そして滅多に見られない狼狽の後、微かに頬が紅潮したような気がする。
 そりゃあそうだろう。
 他人事のようにゼフェルは思う。
 オレだって、あんなとこを見られたとわかったら……ま、それ以前に、こんな風に黙ってらんねーと思うけどよ。
 極めて静かに着陸したとき、ジュリアスがぽつりと言った。
 「……何故、ロザリアがもう主星に戻ると思ったのだ?」
 「オレの口から言わせてぇのか?」
 苦笑してゼフェルは、運転席から躰ごと、後ろにいるジュリアスの方を向けて言う。 
 「オレだってあの後すぐ、ロザリアのことが気になって遊星盤の発着場へ行ったんだぜ?」



 主星へ戻る、と言ったロザリアの言葉を、ゼフェルは発着場にある機器類の陰で聞いていた。確かにゼフェルは、とっくにここへ来ていた。来ていたものの、そこから一歩も踏み出せずにいた。
 とにかく。
 ゼフェルの目に飛び込んできたのは、ロザリアと、そのロザリアを抱き締めているジュリアスの姿だった。
 自分を含め、同い年あたりの彼女たちを子ども扱いしてスキンシップをはかろうとする先輩面した守護聖もいる。まあその輩の中にジュリアスがいるとはとても思えないが、ここで孤軍奮闘していたロザリアに対し、労う意味合いで抱いてやることぐらいはあるかもしれない−−もちろん百歩、いやそれ以上譲って考えたつもりだ。
 だが、ゼフェルがそれ以上進めなかったのは、ぎょっとするほど二人の間を漂う濃密な空気のせい−−ロザリアは小声で、しかもジュリアスの躰に遮られていてゼフェルには聞こえないものの、二人で何か親しげに話しているようだった。ところが躰を離したとたんロザリアは一転して強い口調で言い放ったのだ。
 主星へ戻ります、と。
 わからない。
 あの二人……何なんだ?
 そう思ったとたん、今度はロザリアの方からジュリアスに抱きついた。
 そして……オレのエア・カーで送ってやる、と言ってようやく出ていけたところまで……全部、見た。
 だからジュリアスが、抱きついたロザリアを抱き返したところも。
 ……いや、違う。
 あれはどう見ても、ジュリアスがロザリアを『抱いた』んだ。
 傍で見ていたオレの方が赤面しちまうぐらい、欲望を剥き出しにして−−



 「……わかった。そのことは後で話す」
 そう言ったときのジュリアスは、すでに素面だった。
 「とりあえず、私は行ってくる。そなたはここで……」
 ジュリアスが言うより先にゼフェルはエア・カーから降りていた。
 「ゼフェル……!」
 「ここまで来てオレには残れってか? バカ言ってんじゃねーよ」
 見届けてみたかった。
 今、このときに至るまで、見事にオレたち−−少なくともオレを騙し通した、こいつらの……事の成り行きを。