瀬戸内小話3
考察
「……なんで、俺ってあんたのことが好きなんだろうな?」
閨の中で、唐突に呟かれる言葉。
「我が知るはずもなかろう」
呆れたと溜息と共に返してやれば、硬い掌が肌をなぞる。
「顔は、好みの類だな。だけど、女子のほうが抱き心地はいい。あんたが堪える顔はたまんないけどよ」
指先が、ほんの前まで弄りつづけた胸を抓む。やめよと叩くと、男は鼻で笑う。
「俺に縋るでもねぇ。媚びるでもねぇ。優しくもねぇ」
「……では、褥より蹴り出そうか」
散々な言葉に睨みつけると、笑った顔のまま肩を竦めて見せる。
「相変らず、きついな。それでもあんたの声を聞き顔を見たら、触れなきゃ気がすまねぇ」
獲物を振り回す武将の掌らしく、筋張った掌。それが幾度も頬を撫でる。
童のような扱いも、褥の中では嫌いではなくて目を閉じる。
「――なぁ。あんたはどうして拒まねぇんだ?」
閉じた瞼に、吐息が触れる。
「別に、理由など無い」
答えるのも面倒だと手で払えば、その手首を掴まれる。
「誰にでも触れさせてるわけじゃねぇだろ?」
少し低い調子の声に目を開ければ、異なる色をした対の瞳の中に己の顔を見る。
「……我に触れることのできる者が、早々いるはずもなかろう」
「そりゃそうだな」
人の手首を掴んだまま、顔を近づけ人の唇を吸う。こんなことを許すのは、酔狂だと思うが拒もうという気は起きない。なぜかと己に問えばあまり確かな答えは出てこない。
それもおかしな話だ。
「鬼よ」
自由な手で顎を押し離れさせると、不満げな顔をまじまじと見る。
「どうして我は、貴様のことが嫌ではないのか?」
湧いて出た素朴な疑問を口にすれば、圧し掛かる男は声を上げて笑った。
「そんなこと、俺が知るはずねぇだろ?」