Wizard//Magica Infinity −5−
あの事件から数年経った。
私は高校生になった。
今ではあの時あった一時の事件が遠い過去の記憶へと関わりつつあった。
だけど、そんな私に新たな出来事が訪れた。
−コヨミ、身長変わらないよね?−
−昔はあんなに背が高かったのに、成長期終わったの?−
「うん、そうみたい…う~、今じゃ皆の中じゃ一番小さいよ」
−ふふっ!ちっちゃいコヨミも可愛いけどな~!−
「も、もう!からかわないでよ!」
友達の何気無い一言。
この一言が全ての始まりだった。
高校生になったというのに、身長が1センチ、いや、1ミリすら増えていなかった。
それだけじゃない。体重も、ましてや顔付きも幼いまま…まさに中学生のままだった。
お母さんに相談したら、別に不思議なことではない、と返された。
確かに、成長の度合いなんて人それぞれだ。別に気にする程ではない。
昔、中学生の頃は身長も顔付きも周りの皆より大人っぽいとよく言われていた。
今じゃクラスの中では幼い部類に入っている。
まぁ…そういうものか、と自分で自分を慰めていた。
いずれ時間が経てば変わっていくだろう。
だけど…物事はそう簡単には上手くいかなかった。
時は更に経ち、高校3年生。
クラスの皆は昔と比べて見違えていた。
大げさに言えば、子供から大人の姿へと変化していた。
男子は幼かったあの時と比べ顔付きは険しくなりたくましい筋肉が突き、女子は丸みを帯びた身体、どこか色っぽい、女子から女性へと変化していた。
だけど…私は昔のまま。
セーラー服は一度も新調したことがない。体も、顔も。声のトーンも。
全てが昔のままだった。
次第にクラスの皆からは不審に思われるようになった。
それは、私自身だって同じだ。
あまりにも変化がなさすぎる。
そして…
「きゃっ…な、何を…」
−近寄らないで、化物−
「えっ…」
−お前…なんで成長しないんだよ…もしかして幽霊なんじゃないの?−
「そ、そんなんじゃない!」
−へへっ!中学生の教室はここじゃないぞ!?お前、本当に高校生か!?−
皆から気味悪がれ、いじめられるようになった。
教科書はズタズタにされ、朝登校すると机が無くなっていた。
無意味にゴミを投げられ、気付いた時には完全に孤立するようになっていた。
私は、いつしか不登校になっていた。
誰とも関わりたくなかった。
私が成長しない…という噂はいつの間にか学校中、いや、村中へと広まっていた。
道を歩けば一角でおばさん方がヒソヒソ話で私を冷たい目で見る。
畑を耕しているおじいさんに話しかければ祟りとか悪霊が着いてるとか…訳のわからないことを言われてしまう始末だ。
そして、ついに私は卒業を迎えた。
もちろん、学校にはいかなかった。卒業証書を受け取ったのは自分の家の中でだ。
担任の先生と校長先生、そして私のお母さん。
私のお母さんは私が卒業したのを泣きながら喜んでいた。
先生と校長先生は…無理やり笑顔を作って喜んでいた。
この場で卒業を祝ってくれたのはお母さんだけ…。
そっか…私は、この村から阻害されるようになったんだ。
頼れるのはお母さんだけ。
この村の住人、全てが私の敵だった。
何故だろう…昔はあんなに大好きだったこの面影村が…
いつしか…大嫌いになっていた。
また、何年か過ぎた。
同級生だった人達は既に就職をしてこの村を出ていったか、何人かは残って自分の家の仕事をしている。早い人だったらもう既に結婚してるかしてないかぐらいの歳だ。
だけど…私の姿はあの時の…あの中学生の時のまま。
一歩も外を出なくなった私はいつしか、村中から疫病神扱いされていた。
そんな私をお母さんはいつまでもかばっていた。
周りのご近所から何を言われても、阻害されても、いつまでも私に優しくして、笑顔で居てくれた。
−コヨミ…今日の晩御飯は何が良い?お母さん、なんでも作ってあげるわよ?−
「うん、ありがとうお母さん」
私は知っている。
お母さんが、仕事場でも阻害されていることを。
理由?簡単だ。
私だ。
それなのに…私を傷つけないように毎日接してくれる。
だから…私自身も辛かった。
何故、こんな事になってしまったのだろう。
全てが…狂った。
あの…ダムの事件から…。
ダム?
あ、そっか…。
わかった。
全てが、狂った出来事。
あの時、私の願った願いが全ての元凶。
私が全てを招いてしまった。
−私はっ…この村が大好き!!いつまでも…いつまでもこの村の風景が変わらないっ!!この時間がずっと続いてほしいっ!!!!−
物事は、変わらずにはいられない。
世界は、変わらずにはいられない。
運命は自分で決めるもの…よく言ったものだ。
運命は決めるものじゃない…
運命は他人に強要されるものじゃない…。
全部、本当に…最初から決まっていたんだ…。
私の希望が絶望の始まりだった。
「お母さん…」
−なに?コヨミ…−
「今まで…あたしを育ててくれて…ありがとう…」
−え?−
「こんな私を…ひぐっ…今まで見捨てないで…本当にありがとう…っ!!」
−…コヨミ…−
「大好きっ!」
私は力いっぱいお母さんを抱いた。
それに続いてお母さんが優しく私を抱いてくれた。
私はお母さんが大好き。
だから…これ以上お母さんを傷つけたくない。
「…お母さん…」
−うん…何?コヨミ−
「さようなら」
−っ!!…コヨっ…−
生まれて初めて、魔法を使った。
最初に使った魔法。
お母さんの中の私の記憶を『消去』した。
お母さんを…楽にしてあげた。
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作品名:Wizard//Magica Infinity −5− 作家名:a-o-w