瀬戸内小話4
雪中行
先触れの文にしたためられたのは、今日の日付。だが、一向に長曾我部一行が到着したという報は届かない。
「……さもあらんか」
庭は昨日より降り出した雪に覆われ、もはや草木の見る影もない。
もとより、吉田の地は冬となれば白景色に包まれる。南海に住む者どもにとっては、難儀な道中であろう。
火桶の墨がぱちりと音を立てる。
忍び込む冷気に息をつくと、手を叩く。近くに控えている小姓に、蔵から酒を出しておくように命じておく。
元々飲む男らではあるが、この寒さだ。いつもの量では足りないに違いない。ただ、それもこの地にまで無事たどり着ければの話。
もし、雪にまみれその身体を冷たくしてしまったのならば、それも一興。
氷の張る池の中に沈め、冬の間愛でてやってもよいと思う。
普段は煩い男も、黙ってればそれなりに愛らしい。
己の夢想に口元を緩めていると、小姓が甘酒と共に長曾我部一向の来訪を告げた。