二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

瀬戸内小話4

INDEX|6ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 



 意外にこの男が花好きだというのを知ったのは、いつのことだろうか。
「へぇ、今日は葵か」
 床の間に下げられた鶯切には、一輪。淡い紅紫の花が揺れている。
 ここの花が、いつも同じであったためしはない。聞けば、手ずから庭の花を生けているという。これまた、らしくない趣味だろう。
「……詳しいな」
「ま、な」
 開け放たれた障子から、眩い日差しが差し込んでくる。
 縁側に足を投げ出すような格好で座れば、非難めいた視線が向けられる。だが、それ以上、男は何も言わない。
「そうだ。最近、珍しい苗木をもらったんだが、いるか?」
「珍しい?」
「ああ。唐のほうから持って来たやつだって言ってたな。黄色の花がいっぱい咲くらしいぜ」
 下女が運んで来た茶を受け取って啜っていると、男は一段落ついたのだろう、筆を置いて縁側へと出てきた。
 珍しく見上げる白い面。その顔は、静かに庭を見ていたかと思うと、静かに横に振られた。
「我の庭には不要なものだな」
「そうか?」
「ああ。だが花をつけたら知らせよ」
 男が横に座る。その袂から、ふわり薫るのは何の香か。どうにも、こちらの趣味には弱い。
「四国へ、見に行こうぞ」
「そいつは物好きな」
 普段、国を空けることを由としない男が、たかが花ひとつのために国を空けるという。
 声を上げて笑えば、眉間に少しばかり皺が寄った。
「まあ、いいさ。案内するぜ。それより、俺が手折って持って来た方が早そうだけどよ」
 皿に盛った大福を齧れば、その向こうで男がそうかとひとつ笑う。

「我としたことが、そんなことにも気づかぬとはな」


作品名:瀬戸内小話4 作家名:架白ぐら