こらぼでほすと 風邪1
リジェネは、毎晩、寝る前にヴェーダとリンクして、その日一日のデータを閲覧して処理する。ティエリアも同じようにしているので、顔を合わせることもあるが、あちらはグリニッジ標準時間で活動しているから、時差の加減で、ここんところは顔を合わせていなかった。これといって緊急を要するものはないから、リジェネも、ざっと流し見ておくぐらいで戻ったら、となりの布団が騒がしい。目を開けて、となりを見たら、ゴホゴホと咳をしているママが、頻繁に寝返りを打っている。先日から、ちょっと咳はしていたのだが、大したことはない、と、ママが言うので、リジェネも放置していたのだが、そんなどころではない。
慌てて、起き上がって電気を点けたら、ママは真っ赤な顔で咳をしている。
・・・・え? ・・どういうこと?・・・・
「ママ、ママ、どうしたの? 」
ゴホゴホと咳をしているママの肩を揺すったら、こちらを向いた。涙目になっているが、リジェネを見たら、ニコッと笑った。
「クスリが切れただけだ。・・・・悪いが・・・おまえさん・・・ここから・・・・出てくれ・・・・感染る・・から・・・」
たどたどしい言葉で、咳をしながら説明して、リジェネの身体を押し返す。イノベイドでも、こんなに咳をしているところに居座ったら感染すると思ったらしい。
「クスリ? それなら、連絡して持って来てもらうよ。」
「・・・いい・・・朝に連絡する・・・」
すでに、真夜中を廻った時間だ。脇部屋から出ろ、と、言われたリジェネは、しばらく様子を見ていた。リジェネがママの看病をしているのは、ほとんど、寝たきりになっているぐらいだったから、こんなことは初めてで、どうしていいのか、わからない。そのうち、息がヒューヒューと鳴り出して、余計に慌てた。ついでに、ママも喋らなくなった。声をかけても反応がない。どんな時でも、リジェネが声をかければ、何かしら反応があったのに、布団に包まったまま荒い息を吐いて咳をしている。
・・・・こんなのおかしい・・・ママが・・・死んじゃう・・・・
だんだんと怖くなってきた。確かに、人間は簡単に死ぬし、寿命も短い。だが、ママは、まだ若い。まだまだ、時間はあるはずだ。とにかく、なんとか対処しなくては、と、思ったものの、すっかり、ドクターのことも頭から吹き飛んでいた。慌てて、ヴェーダとリンクする。
・・・・風邪なら・・・どうしたら・・えーーー・・・・クスリ?・・・ああ、クスリだっっ・・・・まず、クスリを探さないと・・・でも・・・なんのクスリ?・・・・風邪?・・・・風邪なの?・・・・
人生初のパニック状態で、あたふたと該当しそうなものを探すのだが、リジェネ本人が混乱していては、データも取り出せない。でも、ママは苦しそうで死にそうだ。フルドライヴすれば・・・と、ヴェーダを動かそうとして、止められた。
「何をしているんだっっ、リジェネ・レジェッタっっ。いきなり、フルドライヴするような緊急の要件が発生しているのか? データを開示しろっっ。」
いきなり、ヴェーダがおかしな動きをしているので、ティエリアが気付いて飛んできたのだ。その顔を見て、ほっとして、抱きついた。
「助けてっっ、ティエリアっっ。ママ、ママがっっ。死んじゃうっっ。」
「なにっっっ。ちょっと身体を貸せ。」
リジェネの必死の形相に、ティエリアも慌てた。ニールは細胞異常の治療も終わって、そろそろ完治するはずだった。それが具合が悪いのなら、まず、現状を把握しなければならない。幸い、リジェネの身体はニールの側にある。それを借りて、ニールの様子を眺めた。
布団に包まって咳をしているニールは、確かに具合が悪そうだ。声をかけても反応がない。首筋に手をやると、かなり熱い。高熱を発しているらしい。
一端、戻って、リジェネが知っている情報も引き出した。リンクすれば、一瞬で、それも把握できる。ハイネがラボの当直で留守をしている。それから、数日前から風邪気味だった。
・・・・まず、ドクターと連絡を取らなければ。それから、搬送の足だな・・・・
とりあえず、アスランのパソコンが起動していたので、そちらの画面に直接、顔を出した。違法侵入なんて、なんのそのだ。ニールが高熱で意識がないから、ドクターのところへ運びたい、と、言ったら、アスランも立ち上がる。それはマズイからだ。
「わかった。すぐに、ドクターに連絡する。それから、ティエリア、悟空を起こして、寺の門を開けてもらってくれ。」
「了解した。」
アスランは本宅に連絡をして、ドクターを叩き起こした。寺の周辺には、ヘリポートがない。動かしていいのか、確認すると、ドクターも同行すると言い出した。どういう状態か、わからなくては処置のしようがないからだ。
「寺の前で合流しよう。診察して、緊急を要するなら、最寄のヘリポートから搬送すればいい。」
「わかりました。」
で、リビングでゲームをしていたキラに声をかけると、こちらも同行するとコートを用意する。ホスト稼業のお陰で、深夜でも起きていることは多い。たまたま、今日はキラもアスランも起きていたし、夜の営みもなかったのは幸いだ。
リジェネに入ったままのティエリアは、ニールの様子を確認すると、回廊を降りて悟空の部屋に飛び込んだ。それから、容赦なく悟空の身体にキックを見舞う。それぐらいしないと悟空は起きない。
「悟空、起きろっっ。」
その声で、はっと目を開けた悟空は、飛び起きる。
「すまない、緊急事態だ。ニールが高熱でダウンしている。これから、アスランが搬送にやってくる。門を開けてくれないか? 」
「は? え? ママが? 」
「ああ、ここでは、どうにもならないんで、アスランに連絡した。アスランとドクターがやってくる。」
ヴェーダともリンクしているから、アスランとドクターの打ち合わせも聞いていた。それが妥当だろう。風邪にしては高熱すぎるから、診察してもらったほうが安全だ。
「わかった。門を開けるんだな。とりあえず、境内のほうから運ぼう。」
悟空も説明されれば、すったかた、と、動き出す。玄関を開けて、門も開ける。それから、境内を横切って脇部屋に走りこんだ。
「ニール、ニール、しっかりしてください。わかりますか? ニール? 」
リジェネが必死に呼びかけているのだが、反応はない。荒い息だけが聞こえる。これは絶対におかしい、と、悟空も近寄った。どんなに熱があっても、おかんは心配しないように大丈夫、と、いつもは返してくれるからだ。覗きこんだら、おかんは目を瞑って荒い息を吐いているし、身体も震えている。熱が高すぎて寒いのだ。
「毛布増やすぞ、リジェネ。」
「俺はティエリアだ、悟空。今、リジェネの身体を使っている。」
「へ? 」
「リジェネが連絡してきたんだが、パニくっていて使えないから身体を借りた。」
「リジェネは? 」
「ヴェーダに戻っている。毛布だな。」
作品名:こらぼでほすと 風邪1 作家名:篠義