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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 11

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 知らないのも無理はない。エナジストという呼び名はハイディアやレムリアの民しか使わない、ロビンはそれを思い出し、言い換えた。
「メアリィがやったような事をお爺さんもできるのか?」
 するとヴァッサは胸を張って答えた。
「もちろんじゃよ!」
 言うとヴァッサは横を向き、手をかざすとエナジーを発動した。
『アクア!』
 小型の雨雲が発生すると、水が雨のように降り注いだ。
「まあ、ワシが使えるのはこれだけなんじゃがな」
 ヴァッサが使ったのは紛れもなくエナジーだった。
「どうしてお爺さんが使えるのですか?」
「それはな…」
 メアリィが訊ねるとヴァッサは答えた。
 彼が若かった時の事である。冒険心からガラパス島より南西にある島、アクア島のアクアロックへ赴いた。
 イオアム像と呼ばれる絶え間なく水を出し続ける像のおかげでアクアロックはほとんど水浸しの場所であった。そこで彼はエナジーストーンとある秘宝を見つけた。『アクエリアスの石』という宝石であった。
 アクエリアスの石は台座の上に置かれてあった。まるでそれが何かの役目を果たしているかのような、そんな雰囲気を醸し出していた。
 ヴァッサはそれを手に取ってしまった。持ち帰り仲間達に自慢しようと思ったのだ。
 その時だった、突然ヴァッサの両側から大量の水が襲いかかってきた。アクエリアスの石が秘める力によって水がせき止められ、なんと水が真っ二つに割れていたのだった。それをヴァッサが石を取ってしまったがために、せき止める力は止まり、水が流れ出したのだった。
 ヴァッサは水に飲み込まれ、しばらく流された。まともに身動きすらもとれず、かなりの量の水を飲んでしまった。
 もう死ぬ、そんな思いがヴァッサをよぎった。そして泡の浮く水面を見ながら、ヴァッサは気を失った。
 次に目を覚ましたのは浜辺であった。ここがあの世か、そう思いながら辺りを見回すとそこは確かに見覚えがあった。
 ヴァッサが打ち上げられた浜は彼の故郷であるガラパス島の浜であった。体に大きな怪我もなく、手にはあのアクエリアスの石を握っていた。アクア島から実に二キロ以上も流されたというのだ。彼の命が助かったのは奇跡以外のなにものでもなかった。
 一応ヴァッサはしばらくの間養生した後、これはアクエリアスの石を取った罰であり、今後もガラパス島になんらかの罰が下ると危惧した彼は再びアクアロックへ赴いた。アクエリアスの石を返すためである。
 しかし、ヴァッサはアクエリアスの石があったアクアロックの内部に入る事は愚か、岩山に近付くことすらもかなわなかった。
 アクアロックの至る所で水を出し続けているイオアム像がどういうわけか一カ所に集まり、道を塞いでしまっていた。それ以来誰一人としてアクアロックを登ることのできた人物はいない。
「…という事があってな、ワシはずっと石を返したいと思っておったのじゃ」
 ヴァッサはひとしきり話し終えた。
「そこで頼みがある、お主らにこの石を託す。どうかワシの代わりに石を返してきてはもらえんじゃろうか?」
「いや、ちょっと待ってくれよ。その岩山はイオアム像とかいうのが邪魔で近づけないんだろう?一体どうやって…」
 ヴァッサは答えた。
「一つだけ方法がある、お嬢ちゃんの力を使えばアクアロックに登ることができる」
 メアリィによってアクアロックへの道は開けるのだと言う。
「私の…?」
「そうじゃ。ちょっとワシに付いてきてくれんか?なに、すぐ近くじゃ」
 言うとヴァッサは歩き出した。どうすべきか、ロビンとメアリィは一瞬顔を見合わせるとついて行く事にした。海で遊んでいるジェラルド達に一声かけていこうかと思ったが、すぐ近くだというのでそのままにした。
 ヴァッサの言うとおり、全く遠くなかった。ほんの少し歩いた所に彼の見せたかったものがあった。
「ここじゃよ」
「これは?」
 そこにあったのは大人二人で抱えても余りそうなほど大きな岩であった。それもただの岩ではない、水滴の形をしており、全体が綺麗な水色をしている。古の芸術家がそうしたのかのように、マーブリング模様である。
「アクアストーンというものじゃ。何か感じんか?」
 ヴァッサの言うとおり、このアクアストーンからは不思議な力に満ちていた。
 エナジーストーンのようにエナジーを放っているのではない。言うなれば、ため込まれているといった感じであった。
「水の力が感じられますわ…」
「やはりな、お主ならきっと分かると思ったぞ…」
 このアクアストーンは遥か昔、ガラパス島がまだ無人島であった頃からここにある。これはアクアロックへの道を司る一種の鍵のような役割を持っていた。
 昔、アクアロックは今のようにイオアム像によって塞がれていた。何百年も前から、やもすれば何千年前、アクアロックが誕生した頃から、アクアロックへの道はずっと閉ざされていた。
 長い年月の末、ガラパス島へ移民が集まった。最初はほんの少数であったが、次第に世帯が増え、ついには一つの集落を形成するまでになった。
 そんな小さな集落に一人の放浪者がやってきた。今より数百年前の事である。
 その放浪者は常人とは違う能力を持っていた。水を操る能力である。放浪者はガラパス島に程近いアクア島から溢れ出る水の力に引き寄せられるようにこの島へやってきたのだった。
 放浪者はすぐに集落内のアクアストーンに気が付いた。そしてその石に秘められた水の力を解放した。すると、数千年の間決して開かれる事の無かったアクアロックへの道は開かれた。
 それから長い年月、アクアロックは開かれたままであった。ヴァッサがアクエリアスの石を取り、再び閉ざされるその時まで。
「ワシの未熟な力ではこの石に宿る力をどうにかする事はできんかった。じゃが、きっとお主ならどうにかできる。きっとな」
 ヴァッサは信じていた。メアリィこそがアクアストーンの力を解放し、アクアロックの道を開くであろうと。
「分かりました、やってみますわ…」
 メアリィは自分の背丈も越える大きさのアクアストーンの前に立った。そして石へと手をかざし、精神を集中した。
『アクア!』
 メアリィが詠唱するとアクアストーンの真上に小型の雨雲が出現した。そして雲は雨を降らせる。
 アクアストーンはエナジーを受けるとぼうっ、と淡い光を帯び始めた。石のマーブリングの模様がはっきりと浮かび上がっている。
 石の淡い光が小型の雨雲に同調するとそれは空へと上がり、元の何倍もの大きさへと膨張する。太陽も遮り、辺りは陰った。そして集落一帯に雨を降らせた。
「うわ、雨が降ってきた!」
 近くにいた島民は慌てて家の中へと駆け込んだ。
 ロビンも額の前に手を当てて多少なりとも雨を避けようとした。
 雨はものの数分で止んだ。上空には虹が架かる。
 なんだ、通り雨だったか、と先ほど家に駆け込んだ島民が出てきた。仕事中だったのか作業着的格好をしており、不満そうな顔をしながら仕事へ戻っていった。
「これで、終わり?」
 アクアストーンにエナジーをかけたが、起こった現象としては雨が数分間降っただけである。ロビンは拍子抜けした。
「っ!?見てください!」
 メアリィは地面を指差した。