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ロマンチストエゴイスト

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「タイムなんかどうでもいい、勝ち負けもどうでもいいって言うんだな」
遙は黙っている。
静かに凛を見返している。
どんなふうに今という時をすごすのかは人それぞれで、考え方も人それぞれだ。
自分の考えを他人に押しつけるのは良くない。
そんなことは、わかっている。
わかっている。
わかっている!
それでも……!
「でも、おまえは県大会で俺に負けて悔しいと思わなかったか?」
相変わらずの無表情の遙に対し、切りこむように凛は問いかける。
「俺以外にも自分よりもタイムがいいヤツが県大会レベルで何人もいて、悔しいと思わなかったか?」
声の調子が激しく鋭くなる。
自分の言葉で遙の心を動かしたい。
「他のヤツよりも速く泳ぎたいって思わなかったか!?」
胸がやけに熱い。
その熱をぶつけるように遙に問いかけた。

遙の無表情が揺れた。
崩れるようにゆがんだ。
凛に向ける眼差しはなにかを訴えるように強く鋭くなった。
その口は言い返すためか開きかけ、しかし、結局、閉じてしまった。

凛は遙が崩れた隙を逃す気はなかった。
「他のヤツよりも速く泳ぎたいって、ほんの少しでも思ったんなら、そうなれるようにしてくれ」
伝えたいことがある。
自分には遙に伝えたいことがあるのだ。
「俺はおまえに他のヤツより速く泳いでほしい」
それだけの才能が遙にはあると思う。
だが、才能があるなんて軽々しく言えない。
「おまえの泳ぎは綺麗だ。正直、憧れる。こんなことを言うのは、本当は悔しいんだけどな」
今の遙の身体は競泳から離れていた期間があるせいで、まだ、なっていない。
しかし、これからもっときたえたとしても、凛ほどにはならないだろう。
けれども、それが悪いことだとは限らない。
ほどよく筋肉のついた、遙の泳ぎには適した身体だろう。
ムダがなくて、綺麗。
凛の理想。
理想としても、自分にはできない。
できないが、望んでしまう。
「俺はおまえに俺と同じように水泳をしてほしい」
ともに泳ぐことを望んでしまう。
「俺のエゴなのはわかってる」
自分がエゴイストであるのは認める。
それでも、どうしても、遙に言いたいことがある。
「俺と一緒に世界の頂点を目指してくれ。頂点が無理でも、行けるところまで一緒に来てくれ」

まるでプロポーズだ。

言われた遙も、言った本人である凛も、同時に同じことを思った。

遙は眼を見張り、少しして、凛から眼をそらした。
その眼が伏せられる。
なにかを考えている表情。
遙が口を開いた。
「おまえは変わったと思っていたが、やっぱり変わっていないな」
落ち着いた声。
「昔と同じロマンチストだ」
そう告げると、遙の身体が動いた。
話は終わったとばかりに去っていこうとする。

ごまかされたと凛は感じた。
だが、それで自分は助かったとも言える。
同じ男相手にプロポーズのようなことを言ってしまったのを、相手にうまく処理してもらった。
このまま遙が去っていけば、今度会ったときに何事も無かったような顔ができるだろう。

でも。

凛は歯を食いしばった。
そして、腕をあげる。
その腕で遙の行く手をふさぐように、遙の向こうにある木に手を叩きつけた。
遙は木に身体をぶつけた。
また眼を見張っている。驚いている。

遙はわかっていない。
そう凛は思う。
県大会で、凛は自分の専門の種目であり優れた記録も持っているバタフライにはエントリーしなかった。
遙はフリーしか泳がない。
それをよく知っているから、自分もフリーのみにした。

「俺はヒマワリみたいだ」
なにも考えずに、思ったことをそのまま口から出す。
「いつも太陽の姿を追ってる」
大きく揺れる感情のままに、上昇した体温に押されるように、言う。
「いつも、おまえを追ってる」

伝えたかった。
知ってほしかった。
わかってほしかった。
ごまかしてくれなくていい。
ごまかされたくない。
ロマンチストでも、エゴイストでも、どちらでもいい。

凛は自分の中にある力をふりしぼり、遙に告げる。

「俺はおまえが好きだ」

遙の行く手をふさいでいる凛のよくきたえられた腕が震えた。

蝉の鳴く声があたりを満たす。
鳴きやんでいたのがまた一斉に鳴きだしたわけではないのだが、そんなふうに感じた。

ふたりとも黙っている。
凛はただ遙の返事を待っていた。
しばらくして、ようやく遙が口を開いた。
遙は凛のほうを見ないまま言う。
「俺が断ったら、また泣くか?」
予想しなかった問いに、凛は戸惑う。
遙は続ける。
「小学校の卒業式のときのように、また泣くか?」
そう問いかけたあと、遙は笑った。
そして、凛のほうを向いた。
からかうような表情で凛を見た。
凛がたった二ヶ月しか在籍しなかった小学校の卒業式で泣いたのは、それも卒業生の中で一番最初に泣きだしたのは事実だ。
恥ずかしい過去である。
なぜそれを今、遙は持ち出してきたのだろうか。
断られたら泣くと答えたらいいのか、泣くわけないと答えたらいいのか。
凛はどう答えたらいいのかわからなくて黙ったままでいる。
すると、遙はまた笑った。
「俺はおまえに泣かれると困る」
からかっているような眼差し。
だが。
「しょうがない」
その眼に強い力が宿った。
「行ってやるよ。おまえと一緒に行けるところまで行ってやる」
顔から笑みは消え、しかしいつもの無表情ではなく、真剣な表情で、遙は言った。
その言葉の意味が一瞬わからなくて、だが、すぐにわかって、凛の心を打った。

蝉時雨が遠くなった気がした。

凛は遙の行く手をふさいでいた腕を動かし、手を木から離した。
その手を遙のほうにやる。
遙の頬に触れる。
しかし、遙は凛の手をそのままにしている。嫌がっている様子もない。
凛は安心すると同時に、自分の中の感情がさらに高まっていくのを感じる。
遙のほうへと身を寄せた。

長いあいだ追いかけていたものを、やっと、つかまえた。

















作品名:ロマンチストエゴイスト 作家名:hujio