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こらぼでほすと 風邪2

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 というか、ハイネがいなかったからダウンしたというのが正しい。なんせ、寺にはインフルエンザを患うような普通の生き物はニールだけだからだ。初期の兆候に気付いていたら、市販薬を流し込むなんて無茶は確実に、ハイネが阻止していた。
 そろそろ、暖かくなってきたから、ニールも油断していたのだろうとは思う。予防接種も受けているが、効力がそろそろ切れる頃でもあった。

・・・・風呂沸いてるはずだから、先にひとっ風呂浴びてから起こすとするか・・・・


 時刻的には、まだ坊主たちが帰ってくる時間ではないので、いつものように小休止している。ずっと起きているのは無理だから、適当にところどころで仮眠しているのだ。その時間は、あまり潰したくないから、まず風呂に入ることにした。それから起こして食事させてもらえば、坊主たちの帰宅時間になる。ハイネが戻ると知っているから、風呂は沸かしてあるはずだ。



 風呂から上がって用意してあったパジャマに半纏を引っ掛けて居間に顔を出したら、寺の女房は起きていた。ちゃんとこたつの上には、ハイネの食事が準備されている。
 で、ニールはハイネに気付いて、一枚のメモを持ち上げた。『呑む? 』 と、書かれている。
「うーん、軽くお湯割りで。ソバに梅干。」
 と、返事すると、今度は、『了解。』 というメモだ。いちいち、書くのが面倒だったらしく、適当に会話に必要なのは書いたらしい。そこいらに用意されているメモは、『風呂沸いてる。』とか『食事のリクエストは? 』 とか『本日のメニューは煮魚と煮物。』 とか、まあ、普段、ニールが口にする常套句だ。声帯を痛めているから絶対に喋らせるな、と、ドクターからも周知徹底のためのメールが入っていたから、ハイネもニールの体調は理解している。声帯を痛めるほどに咳をしたというのだから、相当に酷かったのだろう。で、『説教は、ドクターにされたから、もうすんな。』 と、書かれたメモを見て笑ってしまった。
「おまえ、説教されるのがイヤなら、されるようなことすんなよ、ママニャン。」
 晩酌の用意を運んで来たニールに、大声で注意はする。お湯割りをこたつに置くと、しゃかしゃかとメモを書いて、『インフルエンザだと思ってなかったんだよ。』 という返事だ。それから、ゲホゲホと咳をしているので、リジェネが慌てて背中を擦っている。
「ママ、ポカリ飲んで。喉、乾燥してるんだ。」
 手近に用意している常温のポカリのペットボトルも差し出している。マスクをしているので、ニールの口元は見えないが、咳をするのは、そういうことらしい。マスクを外して、こくこくと呑むと、「ありがと。」 と、リジェネに声をかけた。あっとハイネは止めようとしたが、リジェネのほうが早かった。いきなり、ボロボロと涙を零して、「だめっっ。」 と、叫んでいる。
「喋ったらダメっっっ。絶対にダメ。再生槽だよ? 刹那に逢えなくなるよ? それでもいいの? 」
 真剣な表情でリジェネが叱ると、ニールも、マスクをかけなおして、うんうんと頷く。それからリジェネの頭を撫でている。
「お願いだから、喋らないで。僕、もうママが倒れるのイヤだよ。怖いんだよ。」
 ガバチョと抱きついてリジェネが泣いている。はいはい、と、ニールは抱き締めて背中を軽く叩いている。

・・・・うわぁーえらいことになってんなあ・・・・・・


 たかだか、風邪でダウンしただけなのだが、リジェネがパニックになって対応できなかった、とは聞いていたが、相当にショックを受けたらしい。えぐえぐと泣いているので、ニールはハイネに視線を向けて苦笑している。
「自業自得だろ? おまえ、刹ニャンにもやったからな。そろそろ、学べよ? ちび猫どもは、おまえがダウンすんのは怖いんだからな。」
 とりあえず、ニールがうんうんと頷いたのを確認してお湯割りに手をつける。それから湯気の上がっている煮物に箸を出した。本日は、定番肉じゃがで、シラタキとジャガイモ、牛肉、ニンジンが、ほかほかと鎮座している。じゃがいもを一欠け、口にすると、ほろりと崩れる柔らかさだ。
「あー、冬は、これがいいなあ。出汁が染みてて美味い。」
 他にも常備菜の切干大根やひじきの煮物なんかもある。箸休めには金時豆だ。これで一杯やっていると、思わず、プロポーズしたくなる家庭料理のオンパレードだ。
 『明日の弁当は? 』 と、メモが掲げられた。普段ならラボへ出勤する場合は、ハイネも弁当をしてもらう。
「弁当はいらない。明日は休みだから、ブランチでいい。というか、弁当はすんな。まだ、体調マズイんだろ? ママニャン。」
 『悟空のはする。』と、メモが書かれるので、「悟空のもするな。おまえ、ここでダウンしたらドクターに袋叩きだぞ? 」 と、注意する。あんまり通常モードで動いたら、確実にダウンする。そうなると、ドクターの堪忍袋の緒も音を立てて切れるだろう。
「亭主と俺の世話だけ焼け。間男からの命令だ。・・・おまえ、メシ食ったのか? ママニャン。」
「あんまり食べてない。ママ、食べられる? ちょっとでも食べようよ。」
 泣いていたリジェネが、スタッと立ち上がって、肉じゃがを盛って運んで来た。食べさせて寝かせておけ、と、ティエリアと悟空からも指示されているから、兎に角、食事を運ぶことにしている。えーっという顔をママはしているが、問答無用でスプーンを渡している。
「これ、柔らかいから痛くないでしょ? ほら、ハイネも食べてるよ? あ、お水もいるね。」
 ちょこまかと動いて、水も運んで来た。まあ、食わせておくのは基本なのて、ハイネも、「食わないと八戒に漢方薬を配達させるぞ。」 と、脅しておく。そうすると、渋々ながらも口にする。ようやく、縁の切れた漢方薬と再会はしたくないらしい。
 そこで、悟空の万能漢方薬のことを思い出した。あれなら、これも速攻で治るのではないのか、と、気付いたからだ。



「ああ、あれな。ほとんど本山へ返した。今残してるのは、ママが死にかけた時用だから、今回は使えねぇーんだ。」
 帰ってきた悟空に尋ねたら、返事がこれだった。確かに、インフルエンザごときで、あれを使う必要はない。時間はかかるが、治るのは確定している。
「そういうことなら、いいんだ。明日から弁当なしでいいよな? 悟空。」
「当たり前だ。俺、ママにも、そう言ったぜ? ハイネ。」
「さっき、俺の分を確認してたぜ? あいつ、作る気満々だぞ? 」
 げっっ、と、悟空は慌てて居間へ引き返した。弁当すんな、と、怒鳴っている。ハイネも引き返したら、坊主がハリセンを女房に叩き込んでいた。
「俺の世話だけしろ、と、言っただろうがっっ。サルやもどきは放置しとけっっ。」
 もちろん、ニールはメモに、『もう、おかずの準備はしてあります。』 と書いて反撃している。
「それなら、俺が適当に詰めていくから、やらなくていい。絶対にすんなっっ、ママ。・・・・え? 魚とナタネ? いいよ、学食で揚げ物を買って付け足すから。」
「ママ、弁当はごくーがするって言ってるでしょ? やっちゃダメっっ。」
 もうなんていうか騒々しい。きゃわきゃわとサルと紫猫もどきが騒ぐので、「うるせー。」 と、坊主が一喝だ。
作品名:こらぼでほすと 風邪2 作家名:篠義