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こらぼでほすと 風邪3

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「じゃあ、鍋にしろ。それと洗濯物はハイネが回収するからな。俺は午後から出かける。」
 パチンコですか? と、口が動いているから、「そんなところだ。」 と、坊主も返事する。それなら換金せずに、お菓子を貰ってきてください、と、女房が口パクしているので、「そんなもんに換えたらスクーターで運べねぇぞ。」と、反論だ。
「しばらく、キラたちは来ないから、おやつはいらん。サルだけなら、おにぎりでもすれば済む。おまえ、おやつを作ろうとか考えたら、即座に叩きのめすぞ。」
 そこまでは無理ですねぇーと女房は笑って頷いているので、坊主も微笑む。自覚があるなら問題はないだろう。


 ハイネとリジェネは、その様子に唖然としていた。なんせ、喋っているのは坊主だけだ。女房のほうは、口パクしているだけで声は出していない。読唇術が使えるとしても、会話を成立させるのは、かなり難しいはずなのだが、寺の夫夫は声がなくても、スムーズに会話できているらしい。見詰め合って二人して微笑まれるに至って、とっても居た堪れない気分になる。新婚家庭の邪魔をしている気分だ。ハイネには、ニールの口パクなんて、ほとんど読み取れない。手や首を横に振っているのだけは否定しているというのが判明するぐらいだ。


・・・・あんたら、なんなの? その以心伝心ぶりは・・・・


 呆れるような目で見ていたら、ニールが、こちらを向いて首を傾げた。
「なんで、会話が成立してるか不思議なんだけど? 」
「何年も暮らしてりゃ、こいつの常套句なんてわかるだろ? おまえ、芋なら食えんだろ? これ、食え。」
 昨晩の残り物の肉じゃがの器を、女房の前に移動させて亭主が叱っている。大鉢に盛られているので、リジェネが、そこから小鉢に移してニールに持たせている。盛られているのは、崩れかけたジャガイモだ。で、女房のほうは、これ、と、こたつにマヨを置いている。肉じゃがにも容赦なく、マヨを使用するらしい。リジェネに、もうひとつ、と、頼んで、用意されたジャガイモにマヨを絞り亭主に渡していたりする。
「えーーーママニャン、それは無謀な。」
「ああ? こうするとポテトサラダになんだよ。ハイネもやってみろ。」
 それを手にして、ぐちゃぐちゃと混ぜ合わせて、坊主は食べている。ハイネもやるの? と、リジェネが尋ねているが、そんなものは却下だ。
「俺は、いろいろと盛り合わせてマヨなしだ、リジェネ。」
「了解。ママ、はい、ちゃんと食べて。」
 自分がやらなければ、ニールがやることになる、と、リジェネも解っているから、ハイネの分も取り分ける。ニールのほうも、マヨなしで、スプーンで潰したジャガイモを口にしている。元々、ニールの好物だから、それなら食べられるらしい。こっちも味見しないか? と坊主がマヨ入りジャガの皿を差し出しているが、苦笑して女房は首を横に振る。しょうがねぇーなあ、と、亭主も笑いつつ、皿は引っ込めて自分が食べている。なぜだか、新婚家庭の空気なので、ハイネもリジェネも口を挟めない。



 午後から、トダカがアマギを連れて、寺に顔を出した。大荷物でやってきたので、片付けをして一服していたニールは、『何事ですか?』 と、メモを掲げる。
「これかい? なるべく喉越しの良いものを選んできたんだ。流動食なら食べられるだろ? 」
 食卓のほうに広げられたのは、絹ごし豆腐、豆乳、玉子豆腐、ヨーグルトという原材料系のものと、プリン、丁稚ようかん、コーヒーゼリー、フルーツジュレという柔らかいスィーツ系、さらに冬瓜、かぼちゃ、大根の煮物という惣菜系、それからスープ類の各種の食料だった。
「インフルエンザは油断すると、ぶり返すぞ? ニール。」
 荷物を取り出しているアマギも注意は怠らない。トダカのほうは、絹ごし豆腐のパックを手にして、「これを、ちょっとだけチンして食べればいい。ショウガを少しつけると、喉にも良いよ。」 と、説明している。トダカは、もう甘やかし放題なんで、こういうのも、いつものことになりつつある。寺では、とてもニール用の流動食なんて用意してないから、慌てて運んできたのだ。
 それから、夕方にレイがやってきた。こちらも流動食の差し入れだ。冷蔵庫に、それらを放り込もうとしたら、すでに、各種の流動食関係が用意されていた。
「ママ、トダカさんが来たんですか? 」
 自分の用意したものも投げ入れて整理すると、こたつに転がっているママに声をかける。うんうん、と、ママが頷くので、なるほど、と、納得して、となりに入った。
「ハイネ、今日は休むんだな? 」
「おう、ママの当番だ。明日、誰か寄越してくれるように店で言ってくれるか? 」
「わかった。ミーティングで確認しておく。」
 レイが来たいところだが、生憎と実習が入っていて、店にも出られない予定だ。まあ、誰かしら顔を出してくれるように手配しておけばいいだろう。
『別に、リジェネもいるから留守番できるよ? 』 と、ママがメモを掲げているが、そんなものは信用できないので、笑顔でスルーだ。
「ママ? 俺が留守にしている時にインフルエンザをこじらせたのは、誰ですか? 」
 ついでに、笑顔で注意だ。ちょいと実習が重なって、顔を出さなかったら、ダウンされたので、レイも怒っている。レイの指摘に、うっと目を泳がせているので、さらに笑顔で、「ママは、自分の体調に無頓着なんだから、俺たちで管理します。異存はありませんよね? 」 と、ツッコミだ。
『店の時間だろ? 』 と、その注意をスルーするメモが差し出されたが、それもスルーだ。ママの両手を掴んで、「お願いですから、あまり動き回らないでください。土曜には顔を出しますから。心配で、勉強ができません。」 と、真面目に言ったら、ママは苦笑して頷いた。
「トダカさんと被ってますが、俺も流動食になりそうなものを、冷蔵庫に入れておきました。チューブパックの栄養剤なら、食べられますよね? おじやとお粥は冷凍庫に用意してますから。でも、それだけじゃなくて、なんでもいいから冷蔵庫のものも口にしてください、ママ。」
 はいはい、と、ママは頷いている。マスクをしているから、口元はわからないが、明らかに微笑んで目を細めている。それから、レイの頭を撫でてくれるので、レイも微笑む。声帯を痛めるほどの咳をしたのだから、体力も落ちているだろう。それは気になるのだが、ハイネがいるから、看護はきちんとされているはずだ。
「じゃあ、バイトに行ってきます。」
『いってらっしゃい。今日は寒いから、暖かくしろ。』というメモに大笑いして、レイもバイトに出かけた。


 『吉祥富貴』のミーティングで、ニールの経過報告も行なわれたりするのが、『吉祥富貴』らしい、といえばらしいのかもしれない。
「差し入れは、トダカさんとレイがしてくれたんで、これ以上は消費できないと思われます。それから、明日、誰か午後から夜まで予定の開いている人はいませんか? 」
 仕事のほうのミーティングが終わってから、アスランが、そちらの手配をする。店があるから、ご指名の予約があるもの、トダカ、沙・猪家夫夫あたりは動けないが、それ以外の人間で予定が空いているのを探す。すると、鷹が、手を挙げた。
作品名:こらぼでほすと 風邪3 作家名:篠義