Wizard//Magica Infinity −6−
………
時間は流れて放課後。
午後の授業はあっという間に終わった。
俺は俊平と二人で音楽準備室の目の前に立っている。
これが、最後の部活動となる。
俺は勢いよくドアを開けた。
「早いわね、俊平くん、それと、ハルトくん」
「凛子ちゃん」
目の前には仁王立ちで立っている少女が一人。
俺達のリーダー、凛子ちゃん。
俊平とは打って変わって凛子ちゃんはいつも通りだ。
「さぁて、二人共。今日の予定は既に決まっているわ」
「うん、わかっているよ。タイムカプセル、埋めにいくんでしょ?」
「察しがいいわね、まぁ言い出したのはハルトくんだけど」
彼女の後ろにはアルミ箱が置かれていた。ところどころメッキが剥がれ、ボコボコだったが長期の保存には特に問題ないだろう。
おそらくこの箱の中に各々の日記を入れるつもりなのか。
俺は懐から自分の予言日記を取り出した。
「この箱に入れれば良いんだね?」
「皆の分は既に入っているわ、あとはあなたの分だけよ」
箱の中には3冊の日記が入っている。
コヨミの日記も入っていた。
俺は戸惑いながらもその中へと自分の日記を入れた。
「さて、埋めに行くわよ」
「ちょっと待てよ、コヨミは?」
「コヨミちゃんは…直に会えるわ」
「え…」
「はいこれ!ハルトくんが持ってね!」
いつの間にか俺の腕の中にアルミ箱が収まる。
別に重いわけじゃないが、身体に衝撃が走った。
凛子ちゃんは普段通りに気を振舞っているが実はそうでもないらしい。
全ての行動に置いて無理矢理感が滲み出ている…きっと、彼女も辛いんだろうな。
「行くぞ、俊平」
「はい!」
俺達3人は校舎を出て以前、探検部の部活動で歩いたダムへの道を歩き始める。
俺達は、終始無言だった。
何故かって?
だってさ…これが探検部で行動する最後の活動なのだから。
話題を探してもなにも思いつかない。
自然と沈黙が続いていた。
ふと、目の前に凛子ちゃんのたくましい背中が目に映る。
もう…二度と見れないかもしれない大きな背中だ。
俺は、いや俺達はこの背中を追って今日まで生きてきた。
俺は、この背中を目標にしていた。
「…っ!」
「どうしたんですか?ハルト先輩」
また、目頭が熱くなる。
どうしたんだ、俺。
まだ終わって訳じゃないだろう。
俺は、こんなことでくじけてなんていられない。
そうだ、もうすぐそこまで近づいているんだ。
決断の時を。
・・・
「着いたわ」
2回目はあっという間だった。
気がつけば大きなダムが目に移り、水が流れる音が聞こえる。
そしてその湖畔にぽつんと立つ一本の木。
俺達はその木の下に居た。
「ハルトくん、箱を置いて」
「あ、あぁ」
「さて、と…」
俺は箱を自分の足もとに置く。
自然と目線が下になるが、
再び目線を戻した瞬間、俺は口を開き、目を大きくした。
「え、凛子ちゃん?」
「最後の勝負よ、ハルトくん」
いつの間にか凛子ちゃんは手に竹刀を持ち、俺の目の前にはおそらく俺が使わなくてはいけないであろう竹刀が置かれていた。
「ここで、私に一本とりなさい。時間は無制限、なんでも良い。私に一本入れて」
「待てよ凛子ちゃん、どうして急に…」
「いつものこと…とでも言っておこうかしら?」
俺はとりあえず竹刀を持った。
俊平はなにも言わず、数歩後ろに下がる。
俺は竹刀を凛子ちゃんに向ける。
すると自然に凛子ちゃんも戦闘体勢に入った。
「言っておくけど、もう手加減なんてしないわよ」
「…だと思った。そんな気がしたよ」
「あなたは強くならなくてはいけない。そのために…私は今日までハルトくんを鍛えてきた」
その言葉で俺の頭の中にフラッシュバックのように映像が蘇る。
そうか…あの罰ゲームの数々、どれもくだらないような事ばかりだったが、
自然と、そして俺に気付かれないように俺を鍛えていたのか…?
「マジかよ、俺ってそんなに鍛えられてたの?」
「えぇ、ハルトくんはまだ弱い。だから私はあなたを罰ゲームという名目上であなたを鍛え上げた。そして今回が最後の仕上げ、私に一本入れない限り、このタイムカプセルは絶対に埋めさせない。埋めたくないのであれば話は別だけど」
「ごめん、凛子ちゃん」
俺は竹刀を強く握る。
「約束があるんだ。コヨミとのね…。俺は凛子ちゃんを超える。ここで一本入れさせてもらうよ」
「そうよ…それで良いのハルトくん。…行くわよっ!!」
「っ!!?」
風の切れる音が聞こえた。
気付いた時には既に遅い。
脳に右足からの激痛が届いたのは音が聞こえた数秒後だった。
「痛てぇぇっ!!!!…あっ…」
「…遅い…っ!!」
「っ!!」
竹刀と竹刀がぶつかり合う音が響く。
凛子ちゃんの2手目をなんとか防いだ。
痛がってはいられない。
俺は距離を取り、体勢を立て直す。
「…真っ向勝負、いや、にわか程度の型じゃ駄目だ…俺自身が…俺独自の戦い方なら…」
竹刀を片手に持ち、剣道の型とはかけ離れた体勢を取る。
動きやすいようにリズムよく身体を動かし、両手に持っていた竹刀を右手に持ち、左手は身体のバランスを保つように宙へ浮かせる。
「それでいいのよ、ハルトくん。あなた自身の、あなた独自の戦い方を見出して…っ!!」
「ふっ…ふっ…はぁっ!!!!」
凛子ちゃんの瞬足の一手を俺は竹刀で受け流す。
その勢いを殺さず身体を回転させ攻撃につなぐ。
「っ…甘い!」
回転で得られた重い一撃を凛子ちゃんに放つがいとも簡単に受け止められた。
「それでもっ!!」
受け止められたがそれで俺は終わらない。
更に身体に回転をかけ右足の回し蹴りで凛子ちゃんの脇腹に一撃を入れる。
「あぐっ…やるわね」
「あれっ…結構本気だったのにそんなに効いてない?」
この時、俺は初めて凛子ちゃんに自分の攻撃を当てることが出来た。
だけど、勝負はこれで終わりじゃない。
ルールは俺が凛子ちゃんに竹刀で一本入れなくてはいけないのだ。
だから、いくら蹴りを入れてもそれはただの牽制程度のものであって、決まりでは無い。
俺は再び距離を取り戦闘体勢を立て直す。
「俺って結構身軽らしいね」
「今更気がついたの?ハルトくん。あなたの強みは身体の身軽さ、マット運動、得意だったでしょ?」
「だったら、全力で使わさせてもらうよ!」
右手に持った竹刀を一回りさせ今度はこちらから凛子ちゃんに向かう。
左手を前に出し自分が当てるポイントを絞りだす。
足…足だ。
人間の身体の特徴として足はどうしてもガードをするのに一番難しい場所だ。
俺が凛子ちゃんに一本入れるには足しかない。
「はぁっ!!」
「まだ遅いっ!!」
ジャンプをし、空中で身体を回転させ勢いを増させる。
そのまま凛子ちゃんの左足へと竹刀を振り下ろすがそれを察した凛子ちゃんが下から上へと竹刀を振り上げ俺の一撃を弾く。
彼女の筋力は一体どれほどのものなのだろうか。
俺の渾身の一撃を弾くなんて…。
「空中では身動きが取れないことぐらい察しなさい!」
「えっ!?あがぁぁぁっ!!!!」
右肩に衝撃が走る。
目線を移すと凛子ちゃんの竹刀が見事に当たっていた。
作品名:Wizard//Magica Infinity −6− 作家名:a-o-w