dear mind
男部屋に、シーツの海。
いつもは鼾の大合唱が聞こえるこの部屋も今は静かだ。
波が船体を揺らす、その小さな波音が聞こえるだけだ。
いつもの黒いスーツの下だけを履いた足が、白いシーツに投げ出されている。
スーツの上着とシャツはどこへやったかなとサンジは辺りを見回した。
スーツの上は自分のハンモックに適当に引っ掛けられ、シャツはシーツの海の外に放られている。
確か、またボタンが弾け飛んでるはずだ。
ボタンを探してまた着け直さねぇととぼんやりと面倒に思ったりする。
今はそんな事よりも身体がダルイので、背後の人間座椅子に寄り掛かって寛ぐ事にするが。
その人間座椅子はサンジと同じくいつもの黒いボトムだけを履いて、やはりいつものように瓶のまま酒をかっ食らっている。
背中を木の壁に預けて。
コイツのシャツやら腹巻はどうしたっけと、サンジはまた部屋を見回した。
煙草を銜えたままはっきりとしない頭で部屋の中を眺めながら、ゾロのシャツやら腹巻を視線が探す間にふと昼間船を下りて陸に上がった連中を思い出す。
その中の、少し元気のなかった可愛らしい顔を思い出す。
今頃どこかの宿でゆっくりしているのだろう。
騒がしい連中と美しい考古学者、それからあのアホ船長もいるから大丈夫だとは思った。
それでも、思わずぽつりと口を吐いて出る。
「……今日のナミさん、元気なかったなぁ…」
「ルフィがいる。大丈夫だろ」
紫煙と共に吐き出された小さな独り言を耳にして、ゾロがサンジの耳元近くで呟き返してきた。
ルフィがいる。それはサンジも思った事。
何より奴がいれば大丈夫だろうとは思った。
「ああ…、……あ?」
「何だ?」
「テメェ、知ってんのか。ナミさんの事」
「当たり前だ。俺はテメェよりナミとの付き合い長いからな」
「テメェとナミさんとの付き合いとか言うな!」
「本当の事だろうが。…ルフィだって気付いてる」
「ルフィも? ルフィがそう言ったのか?」
「言いやしねぇが…見てれば解る。ルフィとの付き合いも、テメェより長いからな」
「ルフィとの付き合いとか言うな! ………ぁ」
「……………」
思わず叫んだ言葉にばつの悪そうな顔。
視線を泳がせるサンジを見て、ゾロは思わずと言う風にクッと笑うとサンジの腰に腕を回した。
軽く背を浮かせたサンジを引き寄せて、更に自分の胸に寄り掛からせる。
まだ身体がダルイのか、素直にゾロに寄り掛かったサンジは小さくチクショウ、と呟いた。
「俺らが心配したって仕方ねぇだろ。ルフィに任しとけ」
「…そのルフィが心配なんじゃねぇか」
俺がナミさんを元気付けて差し上げたい…、とか続けるサンジはいつものラブコック。
そんなサンジのラブコック振りが気に入らないのか、ゾロは再びサンジの胸に手を這わせた。
サンジも口ではそう言いながら、自分の出番ではない事は解っている。
今はそれより、この背後の魔獣をどうにかするべきで。
調子に乗るなと言いながら、誰より魔獣を甘やかす料理人は明日クルーが戻ってくるまできっと眠れないはず。