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幸福な少年? (続いてます)

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久々の兄弟喧嘩は止める人間が居なかったせいもあり、ヒートアップの一途を辿り。
結局日付が変わった頃、平和島家の実家マンションは、3LDKだった筈なのに、ぶち抜きのワンフロアへと、木っ端微塵に破壊しつくされてしまった。

流石の静雄も瓦礫の中で生活できる程図太くなく、一時的に幽のマンションへ避難せざるをえなくなり、また出発まで時間の無くなった幽が妥協案として出してきたのが、マンションの修復後に静雄の面倒を見る『家政婦』を雇い入れるという事だった。

「いくら兄さんの事が気に食わなくったって、仕事しに来てる人の前で馬鹿を曝す暇人は居ないでしょ。俺は兄さんが嫌な思いをしなくなればそれでいいし」
「でもよ、俺、他人を無人になってる自宅に入れるなんて冗談じゃねぇ。過去、お前だって通いだった家政婦が三流記者に買収されて、ある事無い事女性週刊誌に書きまくられた事があったじゃねーか」
「大丈夫。今の俺なら存在ごと揉み消せる」
「するな!!」

結局『顔を合わせないよう、家主である静雄の帰宅前に帰って貰う』『幽が帰国するまでを試用期間とし、静雄が気に食わなければその時に解雇とする』
この2つを譲れない基本条件とした。

そしてマンションのリフォームが終わったのが2週間後。その初日に静雄は仕事を遅刻覚悟で家に留まり、顔を合わせて、『てめぇ、早速条件破りやがった』と言いがかりをつけ、早々にお引取り願おうと腹黒く画策したのだが。

やってきたのがなんと、セルティの家で鍋に呼ばれた時、たまたま隣にちょこんと座って、肉が取れずにしょんぼり長ネギばかりを突付いていた、来良の後輩『竜ヶ峰帝人』だったのだ。

「平和島さんの家で働けるなんて幸せです!! 僕、凄く平和島さんに憧れていたんです!! 一生懸命頑張りますので、一ヶ月の試用期間、宜しくお願いします!!」

嘘つけ!! と思った。
自分の何処に憧れる要素がある!?
いきなりおべっか使ってんじゃねーよ!!

と、一瞬イラッと来たけれど。
それも帝人の身体をまじまじと見るまでだった・

彼も仕事着のつもりで着てきたのだろう。
来良の体操服は半袖半ズボン、そんなぺらぺらの布地から付き出ている彼の手足は骨と皮しかなく、細くて今にもポッキリ折れちまいそうで。
そんな惨たらしい体で、90度の角度できっちり曲げての最上のお辞儀をしてくるなんて、居た堪れない。

「細ぇ。なんでお前、そんなにガリガリに痩せてんだよ? どっか身体悪くしてんのか? 新羅ん所行くか?」
「あ……、その、僕、今夏バテで、食欲が無くて……」

えへへへと困った笑顔を浮かべ、頭を掻いた彼だったが、腹の虫がきゅるきゅるきゅると音を立て、嘘が直ぐばれた。

「今朝、何食って来た?」
「え……、えっと、食パン一枚です…」
「夕べは?」
「……食パン一枚です……」
「昨日の昼は?」
「……食パン一枚です……」
「…………………」
「……今月、ちょっと生活費が足りなくて……、えへへへへ、でも後三日経てばネットの広告収入が少し入るので、大丈夫です!! 僕、こういうの本当に慣れてますから!!」

流石の静雄も絶句した。
だって育ち盛りの高校生が、丸一日食パン三枚ぽっちで乗り切っているなんて。
痛々しくて目頭が熱くなる。

ああ、そう言えばあの鍋の日、セルティから、『彼は実家の仕送りが0円で、昭和時代と見紛う程、凄まじくボロい四畳半一間の風呂無しアパートで暮らす苦学生なんだ』と言ってたっけ。
あの時はあんまり興味がなくて、『ふーん』としか思っていなかったが。

そんな極貧生活にあえいでいるであろう彼が、『僕、夏休み中の職を得たよ♪ 頑張って生活費を稼ぐんだ♪♪』と言わんばかりに目をキラキラ輝かせて、静雄を見上げているのだ。

取立て屋なんて半極道な商売をやっていたって、彼の心根はピュアで優しい部類に入る。
そんな自分が、痩せ細った子供に『とっとと帰れ!!』なんて言える筈なんてなく。

「あー、俺の事は静雄でいい。それから、この家の冷蔵庫に入っているものは何でも食っていいから。あーそれと、ほら食材費渡しとく。昼食代もこっから出して良いから、何でも好きなもん買って食え。じゃあな」

そう、財布から3万円引き抜いて手渡し、頭をポンと撫でてすごすごと家を出るという選択肢しか、選びようが無かったのだ。

だが、帝人は最初の宣言通り、本当に頑張ってくれた。
土日以外毎日やって来る彼は、夕食も朝食も手作りお菓子も全て最高に美味い。週末でも静雄が解凍するだけで直ぐ食べられるようにと食事を余分に作り置きしてくれるし、掃除はしっかり行き届いているし、ベットカバーは頻繁に代えてくれるし、天気の良い日は布団も干してある。
洗濯だけではなく、破いたバーテン服だって綺麗に繕った上アイロンがけもパーフェクトだ。


衣食住全てが快適すぎる。
となれば、気持ちも上向き仕事も捗り、心身どっちも最高だ。
もう、竜ヶ峰帝人ナシの2週間前の生活なんて、どう過ごしていたのかも思い出せない。


★☆★☆★


「僕、薬準備してきます!!」と。
風呂場から飛び出していった少年を見送った後、臨也に切られたバーテン服の残骸を脱ぎ、体をすっかり綺麗にし終え、頭からタオルを被ったまま、ジーンズにTシャツ姿で居間にいくと、おろおろ救急箱を抱えた帝人が待ち構えていた。


「悪ぃ。それもういらねぇ」
「うううううう、本当にですか? やせ我慢しているとかじゃなくて」
「おう」

疑り深く上目遣いに様子を伺ってくる少年の短い髪の毛をくしゃりと撫で、2週間で少しだけ肉がついた細く華奢な肩を掴む。

「もうバイト時間は終わったんだろ? 折角だから、一緒に飯を食おうぜ」
こいつにはもっともっと餌を大量に与えなければ。
見ているとそんな使命感に燃えそうだ。

「駄目です。今日は静雄さんの分しか作ってません。足りなくなっちゃいます!!」
とあわあわするが、却下だ。
「苦学生が遠慮すんじゃねーよ」

ひょいっと襟首を掴み、テーブルにつかせたのだが、彼は信じられないぐらい少食だった。
なんせ籠から取った惣菜パンはたったの一個。クリームシチューだって小鉢にやっと一杯だ。


幽が帰ってくる約束の日まで後2週間。
「8月の24日までなんですね。1ヶ月なんてあっという間でした」
「あー、その事なんだがよぉ……、もう本採用でいいから」
「え?」
「お前真面目で良い奴だし、俺は今後もお前続行で異存ねぇ」
「でも、夏休みが終わってしまいます。僕だと日中は学校があるので、今後はお布団干したりとかの、お世話が行き届かなくなりますので、別の人とチェンジした方が、静雄さんの為になるんじゃないですか?」
「んなもん乾燥機買えば問題ねぇ。ドンキで見繕ってくるし」
「夕方から数時間しか働けませんよ?」
「俺が良いっつってんだから、つべこべ言うな。それから、お前は細すぎだ。もっと食え」

遠慮ばかりしている帝人の口に、無理やりフォークでぶっ刺した鳥腿肉の塊を突っ込んだのだが、租借して飲み込んで暫く後、青い顔してダッシュで洗面所に走っていってしまった。

マジで最初に取り分けた分が、帝人の限界量だったらしい。