二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

幸福な少年? (続いてます)

INDEX|4ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

少食すぎで信じられない。

「あー、悪かった」
「……いえ、気にしないでくらは(ださ)い……」
「家まで送っていこうか?」
「……ら(だ)いじょうぶれ(で)す……。れ(で)はまた月曜日にお伺いします。良い週末を……」

ろれつの回らない口調でぺこりとお辞儀をし、ふらふらとした足取りで帰っていく。


帝人の足音が消えた後、新羅に慌てて電話確認したが、のっけから怒られた。

≪駄目だよ静雄、君基準で考えちゃ。帝人君は華奢だし、長い事満足に食べられなかったから、今はその辺の女の子よりか弱いんだからね。無理やり物を食べさせるのは、兎に角拷問≫

今後気をつけよう。

★☆★☆★

それから数日後の事。
回収先に向かう途中、買い物袋を両腕二つにぶら下げて、よろよろ歩いている帝人を発見した。
(ちいせぇ身体に、無理しすぎだ)
こっちも仕事中なので、手伝ってやれないのがもどかしいが、自分の為に健気に頑張ってくれてる姿は、見ていてほっこり心が温まる。

だが、そんなほのぼのとした幸せも束の間。
「帝人君~~!! やっと見つけたぁぁぁぁぁ!!」 
人の目の前で季節外れな黒く暑苦しいコートを翻し、ノミ蟲が帝人の背に飛びつきやがった。

「何で俺ん所のバイト急に辞めて、静ちゃん家に入り浸っているのさ? 君は俺の大事なおもちゃだろ? 気に食わない気に食わない気に~く~わ~なぁぁぁぁぁいいいいいいいい!!」
「誰が『俺のおもちゃ』ですか。馬鹿ですか馬鹿ですよね、救いようの無い変態ですよね、うざやさん!! 仕事の邪魔です。そんなに暇なら、貴方の信者と適当に遊んでてください」
「『仕事』? はんっ!! 只のボランティアだろ化け物の世話なんてさ!!」
「いいから、新宿に帰れ!! Go Home!!」
「はーい♪ それじゃ帝人君をお持ち帰りで~♪」
「もう二度と行きませんってば!! 離せ変態!! 言葉通じないんですか!!」

標識をへし折ってノミ蟲にぶん投げる。
「池袋には二度と来んなっつっただろ!! い~ざ~や君よぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「げっ、静ちゃん!! お前帝人君のストーカーかよ、キモッ!!」
「そりゃてめぇの事だろうが!!」

拳を振り上げ殴りかかれば、今日はまだ様子見程度だったらしく、あっさり脱兎で逃げていった。
「静雄さん、ありがとうございました」
帝人の声にみるみる怒りが引いていく。
だが、臨也は聞き捨てならない事を色々ほざいていた。

「お前さ、随分ノミ蟲とフレンドリーだな? 一体どういう関係だ?」

帝人は静雄に睨まれても、全く怯まなかった。
疚しい事なんて無い証拠だ。

「新羅さんの紹介で、僕、4月から先月まで、平日の19時から21時までの三時間、臨也さんの事務所でアルバイトしていたんです」

でも、ファイルを整頓していた時、臨也がよりにもよって帝人のたった一人しかない大切な幼馴染の親友、紀田正臣に悪さを仕掛け、結果、親友の彼女だった娘が両足を暴漢にへし折られてしまい、一年も前から来良総合病院に入院している事を知ってしまった。
それに少女は元々臨也の信者で、二人が出合ったのだって、臨也の命令で帝人の親友に近づいたのが切欠だった。

「信者の娘だって今も歩けなくて退院できずにいる。正臣は、彼女が病院に居続ける限り、罪悪感に苛まれ、心に癒せない傷を増していく。正に負のスパイラルですよね。それなのに仕掛けた張本人は、何事も無かったようにへらへらへらへら笑っている。この事を知ってしまう前は、とっても良い人だと思っていましたよ。優しい頼れる面倒見の良い情報通のお兄さんだって凄く慕っていた。だから許せない。バイトなんて続けられる訳ない。
もうどんな甘言で釣ってこようとしたって無駄なのに、馬鹿ですよ。完璧に壊れた信頼関係が直る訳ないのに」
「ああ判る。あいつ、反吐がでるよな。最低の屑だ」

静雄は、くしゃくしゃと竜ヶ峰の頭を撫でまくった。

「お前の判断は正しい。あんなのと関わるな。人生棒にふるぞ」
「はい、……ですが許せない。正臣が大事だから余計あいつが憎い。あの人を不幸のどん底に突き落としてやりたいって、そんな衝動が抑えられない。今は無力な僕ですが、いつか……、いつか僕が……、もっともっと力をつけたら……、絶対……!!」

すっと眇めた目は無機質。
今まで見たことが無いぐらい、冷たく人間味が無くなった表情。

静雄自身、来神学園の生徒だった時以降八年もの間、こんな表情になった奴らを沢山見てきた。

臨也の取り巻きや信者だった少年少女が、現実に目覚めた時、取る方法は主に二つ。
脱兎で【折原臨也】という毒から逃げ出し、一生近づかず、かつての自分を黒歴史として忘却の彼方に封印し、社会に復帰する。
それか臨也に復讐を近い、憎悪に狂い、益々人間社会の闇へと堕ちて行く。

このままでは、帝人が辿る道は後者だろう。
気に入っている少年を、しかも戦闘レベルが明らかに0しかない貧弱な彼を、そんな修羅の道に落とすのを見過ごせる訳もなくて。

「おい、あのノミ蟲野郎はさ、俺の8年越しの獲物なんだ。お前の怒りも理解できるが、譲ってやれねぇ。あいつを殺すのは俺だ。悪いがお前は手を引け」

きょとんと見上げる顔は、やっといつもの竜ヶ峰帝人で。
静雄がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。

「狩沢さんが言った通り、シズイザって本当なんですね。僕はてっきりカスシズだと思ってました」
「何の呪文だそれ?」
「僕だときっと上手に説明できないんで、今度、門田さんか遊馬崎さんに会ったら聞いてください。お願いします」
ぺこりと丁寧に90度の角度でお辞儀をされれば、礼儀に厳しい静雄も反論する余地もなく。
「じゃ、僕、お仕事に戻ります。静雄さんも頑張ってください」
「…お、おう……」
はぐらかされた気がしたが、まあいいかとその時は思った。

後日、露西亜寿司にてばったり会った門田達に説明を求めたら、気の毒そうに目を逸らしながら意味を教えてくれたのだが。
気持ち悪さに憤死しそうになった。

「帝人に何吹き込んでんだ!? 誰が臨也と恋仲だ!? なんで俺が幽に組み敷かれにゃならねぇんだ!? ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ狩沢ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」

既に遊馬崎に抱えられ、脱兎で逃亡した後だったのが悔やまれる。
この怒りを、一体誰にぶつけりゃいい?

「くっそぉぉぉぉ!!早く臨也をぶっ殺し、トムさんへの義理を果たして池袋から離れてぇ!!」

腐女子なんて滅びろ。
乙女ロードなんて爆発しろ。
畜生!! 畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


★☆★☆★


そして快適な時間はあっという間に流れるもので。
幽が予定を早めて日本に極秘帰国し、その足でアメリカ土産を大量に携え、夜21時に実家へ帰省した時、静雄はまったりと夕食を平らげた後だった。


出発前破壊しつくされただけあり、内装も家具も何もかも昔とは違うけれど、静雄一人で家事をこなしていた時代とは見違えるほど整理整頓され、快適になった居住空間が誇らしい。
それに、甘党の静雄の為に常備された、一目で手作りと判る焼き菓子やケーキやプリン。

幽は無表情だったが、幼い頃からの付き合いだ。
静雄には判る。